先日、真夜中に、パソコンに向かって『白麗シリーズ』の下書きを打ち込んでいた時、突然、ルース・レンデルという人の名前が頭の中に浮かんだ。
細かい心理描写を得意とする、イギリスの女性ミステリー作家だ。
一時期、夢中になった。日本語に翻訳されている小説は、ほとんど読んだと思う。
出会いは、『わが目の中の悪魔』。彼女の代表傑作は『ロウフィールド館の惨劇』で、私の好きな作品は『荒野の絞首人』だった。小説の題名を並べただけで、その中身が想像できるというものだ。
純文学系の同人誌で、A賞候補にもなった主宰の下で文章修業しながら、内心は「ミステリー小説を書きたい。日本のルース・レンデルになりたい」と、密かに思っていた。しかしある時に筆を折り、その時に、書棚を整理した。彼女の本も含めて、買い溜めていた本をすべて処分した。
そして、縫って編んでの分野に趣味の方向を変えた。
そちらに夢中になっているうちに、自分が小説を書きたいと思っていたことも、ルース・レンデルという作家の名前さえも、忘れていた。2年前に、<カクヨム>と出会うまでは…。
懐かしくなって、ルース・レンデルという名前を検索にかけた。
驚いた…。
5年前に、85歳で亡くなっていた。亡くなる前まで、精力的に執筆されていたようだ。しかし、ある時から、書店で彼女の新作を見かけないと思っていたら、版権で日本の出版社と揉めて、日本では彼女の本は出版されなくなったそうだ。
文学界新人賞に目標を定めて仲間と競い合いながら、心の中では、ミステリー作家のルース・レンデルに憧れた。そんな私が、いま、<カクヨム>で中華風ファンタジー小説を書いている。
しみじみとした秋の夜長ということもあって、いろいろと考えてしまった。