ホラー系のものをちらほら見かけたので、なんとなくそのような話を書きたくなった。
が、投稿するほどでもないので、適当にノートにしてみる。
これは事実に基づく話だが、いかんせんもう何年も前のことなので記憶は曖昧である。古い日記を探ればわんちゃんその時の記録があると思われるが、生憎と何年前のことなのかもよく分からないため探すのは困難だと思われる(ある程度の推測はつけられるが、古い日記を読み返すのが精神的にあれなので)。
ただ一つはっきり言えるのは、これは自分が体験した(と記憶している)出来事であるということ。
ちなみにオチとかないマジのホラー体験なので、苦手な人はブラウザバック。
………………
これは昔、自分が早朝の「新聞配達」のバイトをしていた時の話である。
早朝といってもほぼ深夜の延長、3時、4時……遅くても5時くらいだっただろうか。少なくとも日が昇る前の時間帯。自転車のカゴに新聞を積み、家々を回って郵便受けにインしていく簡単なお仕事と簡潔に説明しておく。
場所はド田舎である。配達先も十数件からそこらなので、何回か回ればおのずと家々の場所も憶えられる。しかし家々が遠く、地域のほぼ全体に点々としているような感じなので、集落の内縁部を一周するようなメンドいコース。
コンビニの類いのない地域のため、夜はとても静か。ほとんどの住民が寝静まっていて、家屋も明かりが点っていない。年寄りが多いため早起きしている家などもありはする。
配達先の人が既に起きて待っていた、とか新聞を郵便受けに入れようと敷地内にこちらが立ち入ったところで出くわした、といったような気まずいケースも多々あるため、出発は早朝、人の気配には敏感に、なるはやで済ませて帰って眠りたい、そんな感じ。
とはいえ、街灯くらいはある。等間隔に設置されているため、夜でも視界には困らない。
しかし時折、街灯と街灯のあいだ、枝葉を広げた木々に遮られて真っ暗に感じられるような空間もちらほらある。人が住んでるんだかなんなのかよく分からないボロ屋もちらほら。そういった空間が不気味といえば不気味だが、自転車でささっと通り過ぎるようにしていた。
そんなある日……街灯もあるし開けた道路を通り抜け、枝葉で暗がりになっているところにある廃井戸、不気味な公衆トイレを抜ける。この時点で不気味なのだが、この後にはすぐ開けた空間がある。いくつかの住宅、空き地、その向かい側には団地があって、特に明るい空間だ。この道路は十字路になっていて、左手側の坂道を上っていけば売店(コンビニのようなものだが夜間は閉まっている)があったり、その上には学校がある。
恐いのはこの先の先……海沿いに住宅が並んだ道路があって、その奥にはどこぞの金持ちの別荘。その先にはお墓的なものがあり、自分のコースは別荘前まで来て左に曲がりーの、さらに暗い道へ。配達先がそこに一件。
そこで人と出くわす気まずさがあったりするので、なるはやで移動するのが常。泥棒みたいな気持ち。犬にも吠えられるのでとても嫌。自転車で走り出すために立ち漕ぎをしようとして首にワイヤーが……と、危うく大けがをするような目に遭ったりもした。かなりのトラウマコースなのである。
……話戻って。
そのトラウマコースに入る前の、唯一安心できる区間。それが上述の団地前にある十字路なのだ。
団地の向かいに配達先が一件あって、そっちは敷地に入るために門を開ける必要があるので割と毎日心労があるのだが……周囲が静かなぶん、門のきしむ音とかがすごい気になるのである。
……あと、この辺にはいわゆる「厄介おじさん」が住んでいて、小学生の頃にその人に捕まって何もしてないのに怒られた記憶があるため、安心スポットとはいえ長居はしたくないエリアでもあったりする。
ついでにいうと、そこで道に迷っていたカップルに捕まり、そいつらを道案内するためコースを逆行する羽目になったこともある。あっちは車、こっちは自転車。車に後ろから追われる恐怖よ。
閑話休題。
さて、この話の本題であるホラー体験だが、それは自分が暗がりを抜け、団地付近の公衆トイレ近くまで自転車を走らせていた時に起こった。
前の方に誰かがいる。
気配とかそういうものではなく、進行方向……ちょうど売店へと続く坂道の方から、誰かが団地側へ向かって歩いているところを目撃した。
赤い服の女、だったと思う。
……白だったかも?
とにかく、長い黒髪だったので、恐らくは女性だ。たぶん、若め。あまり周辺住民について詳しくないためそういう若い女性が住んでいたかどうかは不明だが、これまで見かけたことがなかった。住んでる人といえば学生か、その両親、おじいさんおばあさんくらいで、「若い女」風の人というのは、自分の記憶にはない。明らかに雰囲気が異なっていて、不気味だった。
明るい空間を、ゆっくりと横切っていく。
その先、団地側……団地裏周辺にもいくつか民家があるのだが、そちらは自分の管轄外。なのでどういう人が住んでるかとかも知らない。
特に手に何かを持っている感じはしなかったと思う。わんちゃん、売店前の自販機まで行った帰り、という線もあったが……。
夜の散歩を楽しんでる人、なら分からなくもないが、歩き方がちょっとおかしい感じがした。
……このままいけば、その人の近くで自転車を停めることになる。相手が何者であれ、自分は人見知りなので声とかかけられたくない。人の家に門あけて入っていくところを見咎められるのも嫌な予感しかしない。なので、別コースで遠回りすることにした。
この話はそれで終わり。特にオチらしいものもないので、こうしてノートにした。
実際にそういう人が近くに住んでいたのかもしれない。休暇とかで田舎に来ていたのかもしれない。家族に話すと、心の病気を患ってる人が近くに住んでるかもしれない、とかなんとかいう話を聞いた気もする。となると、やっぱり赤い服を着ていたんだろうと思う。
ともあれ、それ以降、そういう「異様な人」を見かけることはなかった。
少なくともこうして文章にしてみようと思うくらい、記憶に残る体験だったのは確かである。