書けないうえは、練習を。
えっと、シチュエーションはなんでもいいや、誰にしよう。寸劇で。
・通常版
荒野に一軒、その店は町の入り口にある。
見渡した距離に町はないが、荒野を渡る者にとってその店は目印だった。
「パンサ、お待たせ」
開店前の酒場から出てきたバールは、崩れかけのレンガ塀に近づいた。
本来、馬をつなぐために作られた日除けの壁は、一本の木が作る木陰のなかで、役目を忘れられてしまった。
「町の場所はわかったよ、行こう」
壁の上に危なげなく腰かけた、黒い肢体のそばを行き過ぎる。
「バール」
からかうような声が降ってくるが、無視した。
「聞いたのはそれだけじゃないだろ?」
でも、ダメだった。
パンサはレンガ塀の上で体を長く伸ばし、この話題が済むまで動く気はないと、くつろいで見せる。
舌なめずりしてバールの後頭部を見ているに違いない。顔を向けなくても、わかる。
「な、」
なにも、他には、聞いてない。
「今度は何に間違えられたの?」
振り仰いで口を開いたら、ツヤとハリのある声にさえぎられた。
果実のような紅色の瞳が、バールを笑う。白く筋肉痛な体が短パンとベストからしなやかに伸び、服の下の胸や腹はぴったりと下着のような黒い生地でおおわれ、なだらかな形も隆起もよくわかる。
バールは見慣れた相棒の活動的な姿と、肩口でばっさり切った黒髪から飛び出す、とがった耳を見つめた。
いつ見ても、
「……魔法使いって」
いつ見ても、パンサはカッコいい。
「一度で魔法使いって言われたわけじゃないでしょう?」
でもって、意地が悪い。
「……き……」
「き?」
「木こりって言われた」
*
・努力版
荒野にぽつんとその店はあって、行き交う人の休憩所になっていた。
いちばん近い町への道しるべであり、実質的にその町の入り口ともいえる。
話を聞くついでに開店準備を手伝って、バールは酒場を出ると、木陰になっているレンガ塀に近づいた。
崩れかけた壁の上にいる、パンサ・マティアに弾んだ声をかける。
「パンサ、お待たせ」
砂漠色の髪にくすんだ空色の目をしたバーレイ・アレクシアは、先端を布で包んだ長ものを肩にかけ、返答のない相手に急いで言葉をついだ。
「町の場所は聞いたよ、行こう」
促すように行きかけた背中へ、からかうように甘い声がかかる。
「バール」
果実のように芳しい声が、 バールの行動には目もくれずに問う。
「聞いたのはそれだけじゃないだろう?」
たっぷり毒を含んだ声には、ツヤとハリがある。
「今度は何に間違えられたの?」
バールは、ギギギと音がするようなぎこちなさで、観念したように振り向いた。
いったい自分のどこが不審だったのかわからないが、あきらかに見透かされている。
「魔法使いって」
パンサのはっきりとした瞳が、全体に小作りな顔の中で、大きく紅色に輝いてバールを笑う。
「一度で魔法使いって言われたわけじゃないんでしょう?」
細く筋肉質な身体に、ぴたりとそって輪郭をあらわにする下着のような生地と、その上から短いベストとパンツだけの軽装は、身軽な彼女の職業そのものをあらわしている。
肩口でばっさり切った黒髪からのぞく、とがった耳を見つめながら、バールは相棒に答えた。
「……き……」
「き?」
パンサは、いつ見てもカッコよかった。
「木こりって言われた」
だけど、意地悪だ。
*
通常版はいつもの書き方にのっとっていますが、ネーム切ってない即席です。その分きちんとしてない。
でも、こちらの方が慣れてて、安定して書ける。
努力版は、読み返すと色んなところが、あれ、ここどうなってるんだろう?
書いてる時はわかってるのに、後から見るとわからない。
いやすごいブレるな、大変だ、不安定!
努力版は通常版を読んだうえなら、読みやすいですが、初見で読んでも意味が通じるだろうか。