【グロッケンって鉄琴の小さいやつ、正式名称はグロッケンスピールらしくて】
「ちょっとさ、グロッケンスピールと話して来なよ、柊馬(しゅうま)」
「んでだよ、やだよ、断る。てか、オレの話非公開なのにオレここにいたら、変だろ」
「名前にルビふったから大丈夫」
「なわけねーだろ。てめぇで行けよ」
「やだよ、話したことないもん。あの人、主人公じゃないし」
「じゃ、なんで書いてんの」
「便利だから?」
「バールの時もてめぇの都合じゃなかったか? あ?」
「たのむ〜主人公〜」
「都合のいい時だけ、それ言う?」
「これさ、おんなじ理由で嫌がってるよね」
「せーので言うか…せーのっ!」
「ウォレス的に痛いもの書いてるから!」
「……かぶるわけねぇだろ、そんな理由」
「ひきょーものー」
*
「あいつっ……やり返しやがった」
「あれ、おや、柊馬くん。これはこれは」
「それ以上、ひと言もしゃべんなよ」
「なんで?……ふぅーん。主人公も色々とつらいねぇ」
「だぁら、勝手に読むなよ、表情とか!」
「そろそろ、僕の紹介をしてくれてもいいんじゃないかい? それとも? 自分で言おうか!」
「やめろ、マラカスはやめろ! くそ、まともに話ができる気がしねぇ」
「なになに悩みー?」
「寄るなよ、マラカス渡されても困るんだよ」
「持ってると振っちゃうから、君が預かってなよ」
「……。ぜってぇええ面白がってるだろっ!!」
「その代わり、真面目に話を聞いてあげよう。マラカスを持った柊馬くんの話を」
「強調すんな」
「作者、会話劇で悩んでたかい」
「さぁな。あんたどこまでわかってんだ?」
「僕ぁ、主人公気質じゃないからね、せいぜいよくて、外伝のピン芸人てとこだろう。だけど。……脇役として絶大な力を与えられていると思っているよ」
「あんた、怖いな」
「怖いなんてことはないさ、僕は便利だと思うよ、使い方を間違えなければ」
「作者にゃ使いこなせないだろ」
「それは、あの子の心根がまっすぐじゃないからだろ、ちゃんと見ればいい。台詞劇だろうと、見つめる場所は同じはずだから」
「伝えとくよ」
「僕の話を上げてるってことは、なんかあったんだろぅなぁ」
「どこまで面倒見るつもりだよ、ウォレスのおっさん、あんた今、何書かれてんだ?」
「あれ、興味ある?」
「そこそこ」
「ローラ・ケンハートって知ってるかい? 今は違う名前かな」
「知っ……てる」
「あ、そ。彼女は僕の教え子なんだね、教え子いっぱいいるけど、まぁ、そういう話だ。キミは結末を知ってそうだね」
「結末?……知ってるのは結果だ」
「ハッピーエンドでも、バッドエンドでもない、ただの結果か」
「なんだよ、ダメなのか?」
「群像劇って、えてしてどちらにもならないものだよね!」
「そう、かもな」
「でも。白黒はっきりしてる方が、すっきりするじゃないか!」
「誰がだよ、何の話だよ、読書のはなし?」
「ばっかもーん、物語のはなしだ! マラカス一個没収!」
「死にてぇ」
「ちなみに悲劇と喜劇、どっちが好みだい」
「エンディングじゃなくて? 美しい悲劇は好きかな」
「じゃ、普通の悲劇はきらいなんだ」
「ふつうって……ただの悲しい話は、なんでこれ書いたのかなって、考えちまうからやだね」
「じゃあね、全部先にわかっていたら、こういう話になりますよってわかっていたら、悲しみは減るんじゃない?」
「なんか魂胆があって、オレに考えさせてるだろ」
「活字中毒の君を見込んでるんだ、答えたまえ」
「その場合は、読む前になんでこんな話書いたんだろって、思うよ、オレは。で、興味がわいて読むかもしれないし、納得いかなくて読まないかもしれない」
「その本を僕が書いていたら?」
「は?……よ、まない」
「だろうね。……それが本じゃなくて、僕が執筆中だったら?」
「は?……んー」
「ちょっと迷ったね。ふしぎだね」
「書いてる最中のものはさ、本になっていないものは、か。不安定なんだよ、揺らぎがある、それはそれで、そういう魅力なんだろ」
「笑えるくらい、読書家だね」
「ンなっ、あんたはどうなんだよ」
「何がよ」
「読むのか、本?」
「読みますよ? だって君に負けない数字魔だもの。知ってるくせにー」
「いっしょにすんな」
「同じ属種なんだ、あきらめて受け入れなよ」
「オレはヴァンプなんて嫌いだ」
「ぞくぞくするなぁ、その顔は。まぁ、いいや。お遣いは果たせたようだよ、柊馬くん。つつしんで、そのマラカスは進呈しよう」
「いらっねーしっ!」
「一人で僕と向き合うのが大変なら、今度は後輩くんを連れておいで」
「ぜってぇ来ねえ」
「そう願うよ」