「バ〜ル〜」
「ぅわあ」
「……ヒゲぼうぼうになった?」
「おかげさまで、なってません」
「あらすじが書けない」
「唐突ですね。あれ、でも、おれの時書いてませんでした?」
「主人公、ディスっとけばいいと思って」
「ひど。読者といっしょに面白がろうとしてるでしょ」
「今度はそうする。前回はマジメすぎた」
「おれはいつでも真剣でしたよ」
「あらすじとネタバレのちがいがわからないんだ」
「聞いてます? あらすじは説明で、ネタバレは説明じゃないです」
「はぁ?」
「例えばうちの師匠がちょっとハゲててオネエ言葉でしょう? でもって図書塔の司書ですよね 」
「プロフィールだね」
「でも、どれくらい腕が立つかということと、魔女との関係と、限定的に『僕』って言うことはヒミツです」
「秘密が多すぎない?」
「おれもなんか秘密ないんですか?」
「……? レオンの秘密は本人が自分で伏せてるやつじゃん」
「本人が知らない事実もネタです」
「それは私でも区別できるよ」
「同じように、お話のプロフィールも考えてみます」
「表面的なことをなぞるなら、キミが故郷から出て来て、魔法を学ぶ」
「うーん、大前提ですけど、そこをそう説明しちゃうとつまんないですよね」
「私はいま、一介の商人の坊(ぼん)にダメ出しされてるのかな」
「おれとカエルさんの仲じゃないですか!」
「……」
「嫌そうな顔してもダメですよ? えとつまり、おれが家出したことはあんまり重要じゃないです、背景は物語のプロフィールじゃないんです」
「そう?」
「大事なのはおれがどうして、王都に来たのか、魔法を学ぶことにしたのかですけど、これは隠すところですか?」
「んーん、隠さない」
「カエルさんはこれが、おれの物語だってことを、忘れてますよね」
「ん?」
「ん? じゃないですよ、おれのすることを読んでる人が納得しないと、何も伝わらないんです」
「悪役目指す好青年に共感する人いる?」
「おれの悲願をそんな平らな言葉で説明しないで下さい」
「ぇえええ」
「師匠とか、ミンシカとか、スーラくんとか、おれより目立ってますけど、おれの目指すものくらいちゃんと説明してくれても、いいじゃないですか」
「ぐちかっ」
「おれが目指さなかったら、彼らには出会えなかったんですから」
「まぁ、そんなようなことを、あらすじとして、書いた気がします」
「師匠と召喚魔法ばっかり目立たせてたくせに」
「ちっせぇな、召喚魔法はメインテーマだろーがー」
「あ、それ、本音ですよね? 本音ですよね?」
「もー」
「書けないのは、めいきさんの話のあらすじですか?」
「会ったことあるっけ?」
「ないです。でもかっこいいのは知ってます」
「性別問わず、カッコイイもの好きだよね」
「かっこよさに性別は関係ありませんっっ!」
(うざい…)
「主人公、めいきさんじゃないんですか?」
「や、めいきだろうね。説明文もキャッチも背伸びして、ムリして書いてる感がいなめなくて。バールの時はそれでよかったんだけど、抱いてる夢にすでにムリがあるから」
「その夢を叶えるのがカエルさんの仕事だと思います」
「ちがいます」
「ちぇっ。あらすじとネタバレの違いはわかったんですよね?」
「なんとなく。でも客観的に見れないから、何がエモいのか、私がここが好きって思う部分は教えたくないじゃん?」
「減るんですか?」
「減らないけど、先入観になるのが怖いです」
「ああ。作者としての意見じゃなくて、カエルさん個人の好みなんですね」
「個人的なエモしかわからんしぃ、それに好みの幅が超せまいから、万人向けじゃないよ〜」
「……知ってます? 本当に好みにうるさい人は、それを必死に隠すもんですよ」
「……怖っ。バール、こわっ」
「じゅうぶん平凡ですから、大丈夫ですよ。でも、個人的な好みを伝えても仕方ないかもしれません。それより伝えたくなるような所とか、感動ポイントはないんですか?」
「んー。読む前に、どういう展開が待ってるのか、わかってた方がたしかに、安心できる。Webで読んでると、このシーンいつまで続くんだろう、とか、次の話でも事態が展開しなかったらどうしよう、答えは聞きたくて早く先に進みたいのにー、飛ばす?とか考えてるうちに読むのをやめてしまったりする」
「読む環境を整える作業が必要そうですね」
「バールのはバールの物語だったかもしれないけど、めいきのは、なんの物語なのか、テーマを書いたら、ネタバレになるのかな」
「わからないなら、わかることをはっきり書くしかないですね、もちろんネタバレはだめですけど」
「二人が出会わなければ、片方が惚れたなんて言わなければ、あの話にはならなかったんだけどね」
「たぶん、あらすじで説明が許されるのは、背景とプロフィールと動機かなって気がしますね」
「もう少しつっこめない?」
「さっき展開を気にしてましたよね、着地させなければ、ずっと説明していけると思います。でも、そういうことを説明したいんですか?」
「ちがうね。とりまとめたいんだ、空気を。具体的なことを提示しながら。この人のあらすじが上手いというお手本がひとつあるんだけどね、そのビジョンは私には遠いよ」
「そうですか。書き終えないと見えて来ないかもしれませんね。おれのも展開が揺らがなくなってからの方が、見せ方に集中できて、あらすじを完成できたんじゃないですか?」
「そうねー。めいきの話の方がWeb小説向きじゃなく、振り返りたくなるような構成なんだよねー」
「あらすじが書けなくても、話が読まれなくても、めいきさんもりせんさんも気にしませんよ」
「だね」
「おれはまた、首を長くして待ってます」
「あい。すみません」