前回のトークの完結編です。
15000字になったため、前後半戦に分割
(>_<) ヤリスギタ
◆ ◆◆
「ルッティさん、あそこに第一村人発見しました!」
「村人!? いつからウチら『HEART BEAT NIGHT』村の住人になったんよ?」
*
「あ、誰かに見つかった、こっちに走ってくる怖……」
「こぉーんにーちはぁー!! ああっ、逃げないで、逃げないでくださーい!!」
「突撃、となりの晩ゴハンじゃないんだから、そんないきなりマイク向けて、追いかけたら逃げるっしょフツウ……」
「エアマイクです!」
「余計やだよ。あーもー何やってんのかなぁ、どっちにも肩入れしたくないけどっ、守護獣・召喚〈ルールディア〉ッ!!」」
「ぅぉあああああ、すごーい、ルッティさんスゴーい!! 通せんぼするんですね!」
「こう広くちゃ、機動力勝負だけどね」
「蒼白の攻殻装甲獣……、っ!」
「ルールディアは尻尾があるから、ナイフで受けて上下に逃げても無理だよ、だから下がって間合いを取る、ぴあのちゃん今だ説得!」
「教えてください!あなたは誰ですか!? 」
「なんだアイツ、体色と骨格が変わった、ルールディアが突破され……、ぴあのちゃん伏せてっ!」
「ぁっ……ぅぅ、なんかバラバラ降ってきましたけど、これって」
「大丈夫、ルールディアの破片だから」
「っ、大丈夫じゃないですよ!?」
「おかげで止まってくれたよ」
「冷月(れいげつ)、コードネームは冷月/ザ・ブルームーン、職業は暗殺者です」
「うわーサイアクの展開」
「あのーさっきは追いかけて、驚かせてすみませんでした。ルールディアさんをそれ以上、踏み砕かないでもらえませんか?」
「ぴあのちゃん…。ルールディアがああだから、むしろ自分で自分のことをもっと守ってほしいんだけど」
「この青い鎧の飼い主はあなたでなく、そちらのお嬢さんなの?」
「でも、私のために冷月さんに立ち塞がってくれたので、私の責任です」
「ぴあのちゃ〜ん、もうやめ〜」
「私、あんまり人付き合い得意じゃないのね、だから、一人でぼうっとしてたかったの。放っておいてほしいの」
「そうだったんですね、ええと、……ルッティさん、暗殺者さんにはどういう話題を振ったらいいんでしょうか?」
「えっ、仕事のことは共感できないから、それ以外がいいんじゃない?」
「冷月さんは仕事以外の時間は何をしているんですか?」
「何も」
「趣味とか」
「仕事が趣味」
「ルッティさん、話が続きません」
「ぴあのちゃんはどうしたいの?」
「知り合いとか、お友達になりたいです」
「うわぁい、ざっくりだ」
「あなた、この鎧、こんな風に転がしておいてなんとも思わないの?」
「え、あたしに聞いてる? 好きで生まれついた能力じゃないし、それに勝手に自己修復する」
「粉々になっても?」
「わからない、そこまで壊されたことないし」
「いないと守ってもらえなくなるでしょう」
「自分の仕事のケツは自分でもつよ、そいつを出さなくて済むように仕事は選んでる」
「あの、気になったんですけど、ルッティさんはルールディアさんが、好きじゃないんですか?」
「後から発現したせいか、なかなか受け入れられなくてね」
「でも、」
「でもこの子はあなたを思ってるようよ––––––フッ」
「冷月さんダメっ」
「私のナイフが届かないのは、ぼろぼろになっても本能に従うその子があなたを庇うから」
「っ––––––なんでアンタがこんな真似するのか、わからないな。なんか恨まれるようなことしたっけ」
「んー言っていい?」
「な、なにを」
「とってもとっても、似てるのよね、髪の色とか、目の形とか」
「近い、近いって、触るな」
「––––––弟に」
「ル……ルッティさんて性転換してたんですか?」
「し、て、なぁあああああああい! 年齢的に離れ過ぎてるっしょ、このオバハンとは」
「オバサンだけどー、どうせオバサンだけどー、しょげるわぁ、はっきり言い過ぎよねぇ、それは」
「その弟さんの名前は?」
「ルイン」
「げはっ––––––作者をしばきたい」
「ルッティさん……?」
「この人、あたしの伯母さんみたいだ」
「え」
「弟は医者の家に養子に出て、そのまま生き別れたから」
「そう。でもそれ以上は聞かないで、あたしは今はしがない新聞記者なんだ。色々あったって察しがつくでしょ。暴露話をしに来たんじゃなくて、冷月さんにこの子が色々インタビューしたいだけだから」
「えっっと、紹介が遅れました。ぴあの=ハーティンです。都市を守る退治局員をやっています。でも、冷月さんのお話はルッティさんにお任せします」
「あ、そう? 恋バナとか聞きにくいんだけど」
「退治局って人手不足なのねぇ」
「ひどい言われようっス」
「えっと、じゃあ、何聞こうかな」
「こーんにーちは? みなさん」
「うわ、まぶしー」
「なんかキラッキラした人が来ましたね!」
「何これ、猫耳? 猫耳? 触りたいわぁ」
「あの、ちょっとそこ、弱いからやめて」
「伯母さん、遠慮してやって、ほら離れて、しっ」
「あしらい方が慣れてきてる、ルッティさん」
「えぇと、ミロ・ホワイティングです。属種は〈キャッシュ〉、高水準都市にある『ルージュ・カッツェ』で高級娼婦やってまーす」
「話が早い人だね」
「なんかもう服も髪も肌も爪も真っ白しろですねっ!! すべっすべで柔らかそうですっ」
「試してみる〜?」
「ななな何をですか!?」
「ぴあのちゃん、ぴあのちゃん落ち着いて、食いつき過ぎ。あたしはルッティ・トラウディア、カンピース社の記者で、トロンの情報屋。こっちは伯母の冷月、本名じゃなくて殺し屋のコードネームだね。そっちが、ぴあの=ハーティン、退治局員だ」
「不思議な集まりね」
「色んな人に恋バナを聞いてるんです」
「あたしまだ聞かれてないわ」
「話したいの、伯母さん!?」
「……話したくない」
「なんなの?」
「そう言わずに! そこをなんとか!」
「ちょっとぴあのちゃん」
「あたしも聞きたーい、恋バナいいよねー、大好き」
「おいこら、猫ムスメまで」
「何よ、娼婦だって女よ、恋するわよ」
「そういえば、ルッティさんの恋バナまだ聞いてませんね」
「だから〜、あたしはそういうの苦手だって、」
「何それ聞きたい」
「一人だけ話さないとか、ナシよね?」
「伯母さんも、猫っ子も調子にのるんじゃないよ、もう」
「無理強いはしませんっ」
「ぴあのちゃんまでっ、くっ、ここだけのオフレコだよね?」
「オフレコの定義にもよりますが……ここだけの話で本編には波及しません」
「中でぴあのちゃんが忘れててくれるならいいや。別に珍しい話じゃないんだけど、いるじゃんドSな奴って」
「MあってのSだけどね、ドS気取ってる人はいるわね」
「よくわかりません」
「わかるとこだけ、聞いてればいいよ。そういうのが好みだったんだよね、でも、精神的なDVがきつくて、依存から抜け出せなくて」
「名前と顔教えてくれたら、タダで殺(や)ってあげる」
「伯母さん、やめて、もうちょっと仕事にプライド持ってよ。最初の恋人にひどい目にあってから、女性ひとすじだね、今は」
「へー、今、恋人は?」
「いる」
「あの、それ、その、柊馬先輩は知らないんですか?」
「理由までは話してないけど、男に興味がないってことは知ってるよ」
「先輩がちょっとだけ、不憫だなって思いました」
「ははは」
「ルッティ、でもそれは逃げよね」
「ルールディアのこともそうだけど、あたしは結構色んなことから逃げてるよ、伯母さん」
「あたしもそうだから、何にも言えないわー」
「伯母さん、結婚は?」
「ないわー」
「子供も?」
「ないわー、息子みたいな子はいるけど」
「伯母さんて、フリーランスなの? どっかの飼い犬なん?」
「政府の犬ー」
「ちょっとちょっとちょっと、政府がお抱えの殺し屋持ってるってこと?」
「オフレコなんでしょ、そうじゃないとみぃんなを血祭りにあげることになるわ」
「あたし何も聞いてない! なーんにも聞いてないから!!」
「ミロさん、ミロさん、きっと冷月さんなりの冗談です」
「だって、どの話でも表情変わってないじゃない!」
「ところで、冷月さんは誰か好きになったことはないんですか?」
「すごいなーぴあのちゃん、あたしはちょっとそれ聞けなかった」
「そうねーあるわねー」
「その人に告白とかしたんですか?」
「ちびっ子局員は、ぐいぐい行くわね」
「ちびっ子て」
「しないわね、あたしどうせ誰も幸せにできないし、手に入れたいわけじゃないのよね」
「欲がないというより、諦めてるんですね……」
「弟が幸せならいいなと思うけど」
「ごめんね、伯母さん、それは答えられない」
「あなたは幸せ? ルッティ」
「うん。まぁそこそこね」
「なら、いいわ。幸せにはできないけど、この仕事で役に立つことが存在意義みたいなものね、それを与えられて、それを全うするだけ」
「伯母さんの惚れてる人って……」
「それって、悲しすぎない? 道具に成り下がってるってことよね?」
「あなたも人の快楽の道具よね?」
「そう。そのために作られたし、徹底的に管理されてる。一生、外に出られないのはわかってる。でも、心は自由だわ、だから、堕ちていく子も多いけど。あなたは自分から自由を奪っているように見える。そうしなくちゃいけないの?」
「いい男なのよ。わかる?––––––できれば何も思わない一本のナイフになりたいと思うくらいのね」
「きっとその男はふり向かない。でも、息子さんみたいな人がいるんでしょう、あなたを慕う人は他にもいるんじゃないかしら」
「そうねぇ」
「ミロさん、冷月さんのご趣味は仕事なんだそうです。怖いお仕事ですけど、自分からやりたいと思うことをしているんだと思います。今一番、充実しているのかもしれません」
「二人ともいい子たちねぇ、ルッティ」
「伯母さんのせいでこうなってるんだよ。さっきの変身といい、どうなってんのさ属種は」
「もともと身体能力は高かったんだけど、極東に収容された時に改造されちゃって、強化されたのよね、副作用とかあるんだけど」
「き、極東収容所にいたの? あすこは人体実験施設だよ、その耳のタトゥーは、」
「ぴあの!」
「はい! え、あれ? 八神さん!?」
「何あれ、なんかすごい厚化粧じゃないあの人? って、ルッティちゃんも冷月さんも何こそこそしてるの?」
「いや、だってあれはやばいよ」
「天敵っていうか、猟犬なのよねー優秀な」
「大きくなったなぁ、ぴあの! 元気か? 先輩たちにいじめられてないか? 苦労してないか? あんなむさ苦しい野郎どもに囲まれて大変だろう、なんならちょっとシメようか先輩たちのこと」
「やめてあげて下さい。先輩たちはけっこういい人たちです」
「けっこうイイ人って、微妙に苦しい言い訳よね」
「あなたは?」
「はじめまして。ミロです」
「キャッシュか」
「退治局のお偉いさんはさすが、鋭い」
「八神 栄だ。たしか、ナンバー3に上り詰めて新しく真珠の名前を戴いたのがいたな」
「通り名のシルキースノウから〈白真珠〉になったわ」
「キャッシュは俗称だ、〈リンクス〉や〈キャット〉とも違う、娼館の外で確認された個体もいない。お前たちは自分が何者なのかわかっているのか?」
「……知らないわ、知らないまま生かされてる。それだけ秘密にしたいってことなんだろうけど」
「ぴあのはどう思う?」
「えっと、ミロさんは、猫みたいに綺麗ですけど……何かもっと根本的に違う気がします」
「そうか。……で、そこで身を縮めてる奴らは誰なんだ?」
「「おかまいなく」」
「八神さん、ここはぶっちゃけ『トーク』です、つまり……は、犯罪者がいても捕まえたりはできないし、楽しくお話しするところです」
「犯罪者がいるのか、そこに」
「アウチッ!」
「ぴあのちゃんてよく局員になれたわね」
「ミロさん、テキビシイっす」
「犯罪者と話すことなんかないけどな、ぴあのに免じて手は出さないよ」
「じゃ、お言葉に甘えて、拾い屋のルッティ・トラウディアでぇす。名前も顔も忘れてくれるとありがたいなー、なんて」
「トラウディア? レイルロード病院の院長の筋か?」
「う、まぁ。そこはカットで。こっちのまだへたり込んでるのが、伯母の冷月です」
「ルッティ、この裏切り者〜」
「だって、これ以上探られたくないんだもん。伯母さん犠牲になってよ」
「はぁ? 冷月が伯母だ? 冷月てめぇ、ここじゃなかったら、ふんじばってるところだぞ。サクサク、サクサク人殺しやがって」
「ちがう、ちがう、人違いよぉ、冷月ってもっと色黒でイケメンな男だから〜」
「そりゃ、変身したお前だろ! 昼仕様はたおやかな女だってわかってんだよ、その刃みたいに切り揃えた髪、碧玉の目、特徴のある大きな耳ぃ!」
「ちっ」
「ナニ舌打ちしてんだよ、あぁ? どタマかち割るぞ男女」
「無理して化粧して、まったく女になれてないのはどこのオカマかしら」
「殴るッ!」
「八神さぁーん! 落ち着いて下さい! 約束、約束が三分も守れてないですよ!」
「アタマ痛くなってきた、なんでマングースとハブの対決を至近距離で見なくちゃいけないのかなぁ、ぜったい収拾つかないよこれ」
「お互い手出しできないんだから、そのうちあきらめるんじゃない? 話の席に着かせるのは難しそうだけど。そこは、ちびっ子局員のがんばりどころね」
「ちびっ子局員ねぇ、あたしと一コしか違わないんだけどな、ぴあのちゃん」
「八神さん、きっと恋バナを話せば女の人だって認めてもらえますよっ」
「どうあっても、恋バナに持ってく気なんだなー、ぴあのちゃん」
「コイバナ……ってなんだ?」
「そこから? そこからなの八神さん? あの人本当に免疫のないオトコなんじゃないの?」
「あのさ、まだオトコとは誰も言ってないよね?」
「おい、遠巻きに見てないで言いたいことあるなら、はっきり言いに来い」
「いやぁん、バレちゃったぁ・だ・か・ら、恋バナっていうのは、恋愛遍歴とか、過去のことじゃなくてもいいけど、とにかく恋にまつわるエピソードのことよ」
「……聞いてどうするんだ? ぴあの?」
「どっ直球なツッコミ……」
「うっ、それはっ……………………聞いてる方もドキドキして楽しいからです! ごめんなさい!」
「謝っちゃったよ」
「謝っちゃったわね」
「う〜む」
「悩む以前に、そもそもそういう話題が八神さんにはあるの?」
「なにそれ、どういう意味?」
「恋愛なんかしなさそう。だから、あるなら聞きたいんじゃないの? その子は。ちなみに私は話したわよ、聞かれたから」
「お前、モテそうだもんな」
「ゴメンナサイ、あたし男にしか興味がないの。いくら八神さんがオトコらしくても、オカマはちょっと無理芸」
「誰がオカマだ」
「はぁい、ミロちゃんからしつもーん、女っ気じゃなくて、男っ気のない八神さんは、独身なの?」
「独身だよ」
「離婚歴とかは?」
「ない」
「えぇと、えぇと、そうねー、結婚願望は?」
「…………ある」
「えぇっ!? 八神さん、結婚願望あるんですか!? だって、周りにいっぱい八神さんを尊敬してる人がいるのに。そういうお話だって、たくさんありましたよね?」
「あらぁ、そっちの方がモテてるんじゃないの?」
「したくなくて独身なわけじゃないって言いたかっただけだよ。見合いは義理も多い、だいたい画像や経歴で選べるわけないだろ、だから積ん読になっちゃうし、リアルに紹介されても仕事が気になって集中できない」
「うぅ、こんな所に、仕事のできる人の弊害が……」
「いやいや、それって、つまり仕事の話もできる相手ならいいってことっしょ」
「まぁ。そうなるな」
「八神さんほど仕事のできる人はなかなかいません、八神さんより仕事ができない方は、恋人に名乗りをあげることは難しいと思います」
「冷月が言ったように、女だと思われてないだけだよ」
「そんな自虐なこと言わないでください」
「八神さん、好きな男性のタイプは?」
「特にない、勘だ。でも、騒がしい奴は好かない」
「うん、好きな人いたことあるわね、その話が聞きたい」
「白真珠に一本取られた、それ話さなくちゃダメか? 古い話だし、気持ちのいい話じゃない、長くなるだけだ」
「じゃあ、あたしから話そうかな。娼婦の恋愛話なんて聞きたくないだろーけど?」
後半戦につづいてしまう。