春休みが始まった。今年はいろんなことがあったからか、去年の今頃では想像もできなかったところに来てしまったなと思う。
今年は受験だ。小説家に専念するにしても、やっぱり大学でいろんなことを学んだり、たくさんの人を知ることも大事だと思う。だから、今年は執筆も受験もどちらも頑張るつもりだ。
偏差値的にはまだまだ頑張らないと駄目だが、先生たちも母さんも応援してくれている。もちろん、愛さんもだ。そのためにも、ガンガン勉強するぞ。今日は午後から愛さんと図書館に移動して勉強することになっている。いざとなったら彼女に勉強を教えてもらうことも……いや、さすがにそれはプライドも……
なんて考えていたら、約束の時間よりも1時間早く愛さんがやってきた。
英単語を覚えていたので中断して「早いね」と言ったら……
「図書館に行く前に、ちょっとだけデートしませんか」
なんてかわいらしくおねだりされた。
「いいよ。英単語もそろそろ休憩しようと思っていたから」
俺がそう言うと、愛さんは本当に嬉しそうに笑ってくれた。
※
俺たちは図書館の近くにある公園に向かう。今年は少し早めに桜が咲いているらしい。だから、お昼を食べながらお花見をしようと誘ってくれた。そういうちょっとした息抜きに誘ってくれると嬉しい。
「久しぶりです。ゆっくり桜を見るの……」
愛さんは作ってきてくれたお弁当の袋を楽しそうに見つめて静かにそう言った。俺に言っているはずだけど、どこか自分の気持ちをまとめているようにも見えた。
「そうなんだ。お弁当、食べるのが楽しみだよ。これなら午後の勉強も頑張れるな」
理由も何となく察しがついた。だから、深堀はせずに
「ふふ、そう言ってもらえたら嬉しいです。そんなに手の込んだものは入っていませんよ。おにぎりと唐揚げ、卵焼きとか」
そんな男子学生の夢が詰まったメニューを教えてもらえると余計にテンションが上がる。
公園に入ってしばらく進むと、ふわっと空気が華やかになるのを感じる。美しく淡い桜雲の世界。お互いに握られていた手に力が入る。
「センパイでよかった。久しぶりの桜を一緒に見る人が……あなたで……本当に良かった」
優美な桜の木の下で一緒にお弁当を食べる。少し照れくさそうに、指先で弁当袋の端を摘まみながら愛さんはそう言った。唐揚げも卵焼きも美味しかった。
そして、おにぎりの具材は初めて会ったときに一緒に食べたツナマヨだった。