―九月六日、愛視点―
センパイと一緒にキッチン青野へ帰ったあと、私はお母さんに呼び止められた。
「愛ちゃん、今日は女子会をしましょう」
お母さんは無邪気にそう言った。
「女子会ですか? ぜひ」
私も嬉しくなって、すぐに返事をする。
「じゃあ、俺は邪魔だろうから、部屋にこもって小説を書いているね」
センパイはそう言って、自分の部屋へと戻っていった。
少し申し訳ない気もしたけれど、私もお母さんとゆっくり話したい気分だったので、その言葉に甘えることにした。
「今日はパンケーキを焼いてみたの。食べましょう」
テーブルの上には、焼きたてのパンケーキが並んでいた。
「今流行りのふわふわしたものじゃなくて、ちょっと昭和っぽい、いつものパンケーキだけどね」
お母さんは、少し恥ずかしそうに笑った。
部屋には、焼きたてのパンケーキとバターのいい香りが充満している。
「いいんですか? 私、こういうのも大好きです」
鼻をくすぐるバターの香りを楽しみながら、甘い匂いを放つパンケーキを見つめる。
早く食べたい。そう思わずにはいられなかった。
「それに、今日は生クリームの日だからね。いっぱい載せちゃいましょう。お店から持ってきたの」
お母さんは生クリームをたっぷりと皿に盛りつけると、私の皿にも同じように載せてくれた。なんだか、すごく背徳的な感じがする。
これは紅茶とよく合いそうだと思っていると、お母さんがミルクティーを作ってくれた。
「今日はこういう日だから、カロリーは気にせずにいきましょう。英治にもこれを差し入れてきてくれる?」
「はい!」
センパイのおやつもあるのなら安心だ。一人で食べるのは、さすがに申し訳なかった。
小説を書いているセンパイにパンケーキを差し入れてから、再びお母さんの元に戻る。
背徳のパンケーキの上のバターはゆっくりと溶けていた。
「とてもおいしいです」
生クリームと蜂蜜、それからバターの味が口いっぱいに広がる。幸せな気分になる。
「そう。よかった。お口に合ったようね。私は、こういうレトロなのが好きなのよね」
「分かります。今、レトロな喫茶店も流行っていますし」
「愛ちゃんとも、そういうところに行きたいわ」
「私もです」
午後の、ゆっくりとした時間が流れていく。
「愛ちゃん、いつもありがとう」
「何を言っているんですか。こちらこそですよ」
私たちは、互いにお礼を言い合う。なんだか気恥しいけれど、生クリームは、やはり幸せの味だった。
これがずっと憧れていた家族の味だと思った。厚かましいかもしれないけれど、それでも心の中でそう思うのはいいよね。私は少しずつ、お母さんたちとも家族になっていった。
お母さんと呼べる人とまたこういう風にパンケーキを食べることができるのはやっぱり特別だった。