クリスマスイブなのに、俺たちはいつものように一緒に帰っていた。
さすがに、キッチン青野はクリスマスで忙しい。今朝は、朝早くから起きて、予約のオードブルをみんなで作っていた。珍しく俺もバイトとして手伝っていたから、少し眠い。でも、愛さんもうちのクリスマス・ディナーを事前に予約してくれたので、今日の夜は俺と一緒にお客さんとして食事をすることになっている。
「よかったんですかね。いくら予約したからって、忙しいんじゃ……」
クリスマス1か月前の予約ができる初日、11月24日に最初の予約客となった彼女はどこか申し訳なさそうだ。母さんと「タダでいい」、「ダメです。いつもサービスしてもらっているんだからこういう時くらいは……」と押し問答があったが、最終的に俺も食べるからと2人で均等に割り勘することで落ち着いた。そんなこともあって、俺は朝の3時間、仕込みを手伝い身体でバイト代を払ってきた。
「いいよ。一番上のコースを頼んでくれる人ってなかなかいないし。かなり助かるというのが本当のところだよ」
今日のコースは、シーザーサラダとパイに包まれたホワイトシチューとスモークサーモンや生ハムを使った前菜。メインディッシュは盛り合わせのような形で、カモの胸肉のコンフィと和牛のヒレステーキ、ホタテとカキのドリア、カニクリームコロッケ、エビフライ。あとは、ケーキと紅茶だ。兄さんの得意料理をここぞとばかり並べたオールスターズで、材料もかなり良いものを使う。
「よかった。楽しみです、一緒のクリスマス、初めてですもんね」
そうやって、少しだけテンションが高い彼女を見て笑った。商店街から、ラストクリスマスの歌が聞こえてきた。
「実は、ずっとクリスマスが嫌いだったんですよね」
ぽつりと言葉を漏らす彼女は、商店街の町おこしのために設置された大きなクリスマスツリーの前で足を止めた。
「どうして?」
「だって、自分が一人だって、否応なしでもわからされちゃうじゃないですか」
幸せそうなカップルや親子が、俺たちを横切っていく。
どこかうらやましそうな顔をしているようにも見える。
「でも……」
吹っ切れたように彼女は笑う。
「もうひとりじゃないから、寂しくないですよ」
彼女は周囲を見回して、近くに誰もいないことを確認すると、ゆっくりと俺の顔に近づいてきた。
唇が触れ合い、お互いの冷たい体温を温めていく。
「恥ずかしいから、早くいきましょう」
キスの後、彼女は照れ隠しで笑う。
俺は、彼女の横に立って、ゆっくり手をつないだ。
「ありがとうございます、センパイ。近くにいてくれて」
たくさんのことを一緒に乗り越えてきてくれた彼女の手は温かかった。
できる限り歩幅を合わせて、そして、できる限りこの時間が長く続くように、俺たちは一緒に前に進んでいく。