―一条愛視点ー
まるで、今は夢のように幸せだ。これから初めてクリスマスを恋人と過ごすなんて。
だから、思ってしまう。この世界が本当は夢で、私はまだ一人なんじゃないかなって。
楽しいだけのクリスマスイブにしたかったのに、思わず去年の自分を彼に語ってしまった。それは、今が幸せすぎて怖いから。
語ってしまった後の後悔で、少し口が重くなる。商店街の大きなツリーの下で彼に見えないように振り向かずに目を閉じた。
※
一年前のクリスマス。私は一人だった。送迎の車に乗って、街の楽しそうにしている人たちをただ見つめる。本当にかごの中の鳥にでもなったみたい。きらびやかな街並み、皆の笑顔、幸せそうな家族。その美しさが、まるで呪いのように感じられてしまう。
自分の意地の悪さに気づいて、思わずため息まで漏れる。
車の中は温かいはずなのに、それすらも凍り付いてしまうんじゃないかと思うくらい、心は空虚に冷たくなっていた。
都内の有名な教会の前を通り過ぎる。クリスマスだから、鐘の音が聞こえた。奥では幸せそうなカップルがクリスマスウェディングを挙げている。
幼少期、母に将来の夢はと聞かれて、「きれいなウェディングドレスを着ること」と答えたことを思い出す。そんなことは、多分実現しないだろう。私は、ずっと一人だ。
少しだけ疲れた。これから受験勉強をしなくてはいけない。だから、ほんの少しの間だけ目を閉じる。このつらい現実が全部夢で終わってしまうことを願って。
※
去年の葛藤が本当に夢だったみたいに、目を開く。
私の様子がおかしいことに心配した彼が近くにいてくれる。もしかしたら、私の夢をかなえてくれる人は、この人かもしれない。
失ったものを全部埋めてくれる。むしろ、それ以上のものをくれる人。
心の中の感情を理性は抑えることができなかった。せめてもの配慮で周囲に人がいないかを確認して、私は彼の唇を奪った。
一瞬なのに、永遠とも思える時間が続く。
遠くで聖なる鐘の音が聞こえたような気がした。
冷静になって、恥ずかしくなって、照れ隠しする。
「恥ずかしいから、早くいきましょう」
どうか、神様。これが夢じゃありませんように。そうサンタクロースにお願いしながら、私たちは手をつないでゆっくりと前に進んでいく。