―キッチン青野―
俺たちは新年早々、正座をして、母さんの詰問を受けていた。
「それで、二人は楽しく年越しそばを食べて、除夜の鐘を一緒に聞いて、楽しくなっておしゃべりをしていたら、ソファーで眠ってしまったと?」
おかげで、俺は朝帰り。今日は、4人でおせちを食べる約束だったから、そのまま愛さんも一緒に家に来たわけだが、そう高校生の朝帰り。それも女の子(美少女)で恋人の家にいたわけだ。怒るのも、無理はない。
「「はい」」
俺たちは、恥ずかしそうにそう言った。キスをしていたことだけは秘密にして。
「嘘でしょ」
俺たちは同時に頭を横に振る。ほぼ同時に動いた頭に、母さんは深いため息をついた。
「嘘って言ってほしかったわ、愛ちゃんごめんね」
成績が悪い子供を見るかのように、母さんは頭を抱えて、深いため息をついた。
「まあ、いいわ。ヘタレ息子はとりあえず、置いておいて、おせちでも食べましょう。いま、お雑煮用意するわね」
母からの冷たい目線に耐えて、俺も手伝おうと歩き出す。
「私も」と動こうとする愛さんを、母さんが「愛ちゃんはゆっくりしてて」とくぎを刺されてしまい「ありがとうございます」と申し訳なさそうに言っていた。
「ほら、英治。これ持って行って‼」
おせちの箱や飲み物を何度も往復して、こたつの上に運び込む。兄さんたちは、とっておきのウィスキーを開けるつもりらしい。21年と書かれているからかなり高いボトルだろう。
母さんの出身地である山梨風の雑煮もできあがった。
キノコや里芋、根菜類がたくさん入った優しい味わい。油あげも入っていて、かつおぶしが最後に添えられる。
「うわぁ、美味しそう」
愛さんは、その少し珍しい雑煮を見て、楽しそうにはしゃぐ。そういえば、昨日愛さんに話を聞いたときは、愛さんの家はすまし汁にほんのり隠し味で柚子を入れるらしい。それもおいしそうだな。
「里芋って珍しいですね、美味しいです」
愛さんが嬉しそうにしているから、母さんも見たことがないくらいの笑顔になっていた。
「いっぱい食べてね。たしかに、里芋は関西だとよく入れる風習があると聞くわね。でも、山梨は、関西と違って味噌じゃなくて醤油系だし、地域の特性によるんでしょうね」
そんな風に話しながら、楽しくご飯を食べる。幸せな正月が始まった。
「そうだ。愛ちゃん、ご飯を食べたら、英治と一緒に初詣に行ってらっしゃい。和服も用意してあるわよ」
そういえば、この前、母さんが張り切って百貨店に出かけて行って、大きな袋を持って帰ってきたことがあったな。もしかして、あの時に……
「いいんですか!」
「もちろん、愛ちゃんに絶対に似合うと思っていたの」
いや、先ほどの心の声は修正しよう。最高の正月の始まりだった。
※
愛さんの着付けの間、兄さんと怠惰に正月番組を見ていた。
「終わったわよ」
母さんの声が聞こえて、足音が2人分近づいてくる。振り返ると、ピンクの花柄の着物、シックな赤いバック、青い花を形どった髪飾り。そこにいるだけで、周囲の空気が明るくなるような上品さを伴った美しさ。
彼女は不安そうに言った。
「どうですか?」
俺は見とれすぎていて一瞬遅れて、「すごく似合っている」と答えるのが精いっぱいだった。(続く?)
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(作者)
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