ご馳走を食べた後、ふたりで歌番組を一緒に見ながら、他愛ない話を繰り返していた。お互いに音楽にはそこまで詳しくないこともあって、歌番組はバックグラウンドミュージックになってしまっていた。
「そろそろ、お蕎麦食べましょうか、茹でてきますね」
もうすぐ、11時というところで、愛さんは台所に立った。「手伝うよ」と伝えて、俺も天ぷらをオーブントースターに入れて加熱する。これで、天ぷらはかなりカリカリに戻る。スーパーのお惣菜でも効果抜群なので、試してほしい。
エビ天と海鮮野菜かき揚げ、それからレンコン。ひとり3つずつ。
お蕎麦が茹で上がったようで、手際よく二人で盛り付けていく。三つ葉やネギ、ゆず、紅白のかまぼこ。
「いただきます‼」
そう言って、テレビから流れる音楽がどこか遠くに聞こえている。
一口食べる。とてもダシが利いた甘みもあるスープが、そばとよく合っている。さらに、天ぷらが美味しくスープに浸透していく。
「このかき揚げ美味しいです。さすが、お兄さん」
彼女は、海の旨味と野菜の甘みが両立した最高のかき揚げを美味しそうに食べていた。
うちの伝統と一条家の伝統が混ざり合った形になってなんだか嬉しくなる。お互いの家の料理の豪華なコラボレーションだ。
※
―一条愛視点―
「美味しかった」と彼は満足そうにしてくれた。私も普段より多く、ご飯を食べてしまった。だって、彼と一緒に過ごす大晦日は思った以上に楽しすぎた。こんな言葉、口にしてしまったら痛い女になってしまうけど、まるで新婚生活みたいで、ドキドキする。
お母さんのレシピで作ったお蕎麦のスープが、センパイの実家で作った天ぷらと組み合わせることができたのも嬉しかったな。片づけをして、二人でテレビの前に戻ると、歌合戦は佳境に近づいていた。有名なバラードが流れていた。
「今日は準備まで、いろいろありがとう」
「いえいえです」
お礼を言いたいのはこちらのほうだ。クリスマスの時もそうだけど、こんなに幸せな時間を過ごせるなんて思いもしなかった。3か月前、あの屋上から飛び降りていたら……
バラードが終わり、にぎやかな歌合戦が終わると、ゆく年くる年が流れ始めた。
「大晦日って、子供の時、唯一夜更かしを許してくれる日だったから、特別な気分になれるんですよね」
家族の思い出なんて、彼と出会わなければ、思い出したくもなかった。それが幸せであればあるほど、彼と出会うまでの私にとってはつらいものだったから。
いつも、ご馳走を食べて、お正月は忙しいお父さんにたくさん甘えて、家族みんなで年越しそばを食べていた。
そんな日常が帰ってきた。
除夜の鐘を聞きながら、私は彼のくちびるを奪う。奇襲に思わず、彼は身体を震わせたけど、すぐに優しく受け入れてくれた。
「除夜の鐘を聞きながら、こんな煩悩に満ちたことしていていいのかな」
彼の感想に思わず笑ってしまう。
だって……
「こんなに純粋なキスなのに?」
言い終わると、今度は彼の方からキスをしてくれた。
いつの間にか、年が明けていた。
くちびるを離した後、私は彼の目を見て伝える。
「あけましておめでとうございます。これからもずっと、よろしくお願いしますね」
そして、私たちは新年早々のキスをする。