敬老の日SS
「今日は敬老の日か」
祝日デート中に、敬老会の送迎バスが目に入って、思わずそうつぶやいた。
「そうでしたね」
「祝日って意識していないと何の日か忘れちゃうよな」
俺の中、あるあるを言うと、一条さんは笑った。
バスは市民ホールに入っていく。
市のイベントなんだろうな。ゆっくりと高齢の人たちがバスから出てきた。最後に出てきた夫婦は、旦那さんが先に出てきて、少しだけ足が不自由な奥さんに手を差し伸べている。奥さんはゆっくりバスを降りて、ふたりはゆっくり手をつないだままホールに向かって歩き出した。
「いいなぁ」
一条さんはぽつりとつぶやいた。少しだけ目を細めて、本当にうらやましそうな表情になっていた。
「そうだね」
「私たちもあんな風になりましょうね」
いきなりの爆弾に「えっ」と大きな声を上げてしまった。
急激に顔の体温が上がっていく。
「冗談ですよ、もう、そんなに顔を赤くして。一緒に歳を取るの、想像しちゃいました?」
どうやら、からかわれていたらしい。
「俺はちょっとだけそうなったらいいなぁと思ったよ」
こちらの反撃に、一条さんは一瞬だけ驚愕の表情を浮かべてすぐに戻った。
「そっか……」
そう短く言って、それを合図に俺たちは歩き出した。
このやり取りの最初から最後まで手は繋がれたままだった。