面白いのか段々自信が無くなってくる架空書評シリーズ。どちらかというと、件の名手たちのように架空書評そのものに文芸的価値を持たせるようなことは最初から諦めていて、架空書評に出てくる本の方が読んだ人の頭の中で膨らんで実在性を帯びたらいいな、というか。もっと言うと、ツイッターで「○○ください」って言ってるヤツの長文版というか。
■〈神黒〉の銃爪を弾殺け
ライトノベルと造語、というテーマは「ケイオスヘキサ三部作」を愛する身としては外せない。あと「硝る躯」という感覚だけで読ませる気満々の造語。そういうものに惹かれて、だから架空作者の設定もその辺に寄っていて。実のところ、造語を重ねて外字すら作るというのは、紙面に麻雀牌を載せた阿佐田哲也から、『魔神(神冠に人脚)伝』やら、これはもうサブカルチャの華という奴で。
■冬寂の星
元々、TRPGでやろうとしていたシナリオ/世界設定/システムが基盤。世界が雪に覆われた滅亡への道を辿っている世界の話。元々は、もう少し色んな軸(森林にいる聖女と魔女の二重人格とか、帝都中央の亡者の軍団とか、眠れる竜とか、曇天の空のせいで空を飛べなくなった飛行艇の船長とか)がある世界なのだが、グランド・クエストである「不滅の炎の探索」に焦点を当ててみた。
■狼の旅路
『ベルカ、吠えないのか?』を、より大きい規模にしてみた話。あれは戦争の世紀である20世紀を、軍用犬の血統によって語るという話で。血統で語る話というのは、競走馬の知識があったら書いてみたかった話なのだが、まあなので代わりにこのように描いたわけである。『狼王ロボ』は、子供向けでない翻訳でのハードボイルドな魅力に惚れていて。あの作品が狼と人間のかかわりに決定的な反転を刻むところを終着点に、起点を「人間社会の始まりを告げる狼の神話」に求めたという形になる。
■魔剣城奇譚
かつて、TRPGで作ったシステム/シナリオに、魔王殺しの魔剣を取りに来た人間たちの争奪戦、に特化したシステムがあって、それ。そのシステム/シナリオ自体は『深淵』というTRPGの「落雷」というシナリオを、よりアレに特化した構造で遊びたい、という所に端を発するので、原型はそこと言えるかもしれない。「一本の魔剣を巡る話」というのは、ずっと頭の中にある物語のひとつだ。同じぐらい「数多ある魔剣をテーマにしたアンソロジー」もある。
■皇帝暗殺
これはかつて書こうとしていた小説が原型。着想元は『隠し剣』シリーズと『HERO』(始皇帝暗殺をテーマにした映画の)。つまり、超人的技量を持つ暗殺者が、秘伝奥義をもって皇帝を殺しにくる刺客列伝アンソロジーという構想。想定しているオチは、皇帝が帝国を建てる以前にあった妖精帝国があり、妖精代の終わり(妖精王の葬列)を迎えて全ての妖精(この場合の妖精はエルフとか、もっと言えば『妖精王』の雰囲気というか)が地上を去って妖精郷に帰ってなお、霊長の代表者として地上を去れない妖精女帝であるティターニアのために、皇帝が「皇帝」であるティターニアを殺す=妖精郷に送る手段を探していた、という話であった。どうも、このティターニアとオーベロンを軸にした妖精代とその終わり、というのもずっと頭の中にあるテーマのひとつだ。
■星の花嫁
メルヘンネタの現代伝奇、というのは、色んなタイトルが結構あるんだけど、どれも今ひとつ「大ヒット」とまでは行かないところがある。『グリムノーツ』とか『メアリースケルター』とか。『月光条例』もその線に含む、かなあ。ちょっと違うか? このモチーフ大好きなので、もっとスゴいの出ないかなあと思って、書いた。
■無限街 獏の刻印
基本のイメージは、評でも触れた「猿の手」系の話。で、段々規模が拡大していくというアイデアを放り込んだら、『デスノート』を経由して『虚無戦記』になった。刻印という設定は、最初にTYPE-MOON世界設定の「魔術刻印」のイメージで考えて、それと「シリーズ物の一作って設定の本も欲しいよなあ」から『魔界都市・新宿』とそのフォロワー系というイメージが融合した結果、魔法の刺青という代物が誕生した。古月花伝は寂れた和菓子屋の主人にして糸使いの最強糸目キャラ、八葉時貞は無外流を修めた貧乏探偵で美少女魔剣・秀真に選ばれた魔剣使い、みたいな設定が漠然とあるが、あまりにテンプレなので、無限街の別シリーズの評を書くことは無い気がする。
■ただひとたびの魔法
タイトルは『ソード・ワールド短編集』の「ただ一度の奇跡」だし、ソロモン王の話にしたのはFGOに出てきたソロモン王が「ただ一度だけ魔術を使った」の辺りが元なのだが、本当の大本になったのは『すべてはマグロのためだった』だったりする。もっと言うと、『HOTEL』や『Dr.STONE reboot:百夜』も含めて、Boichiさんがしばしば好んで描く「途轍もない能力を持つ超知性が、素朴な善良さに起因するあきれるほど単純で動機のために、途方もない時間と行動力と資産と技術によって事業の規模を拡張していきながら世界を変貌させ、その終着点で最果てから自分の歩んできた足跡を眺めることになる話」。いやー、レイの不屈の行動力にはマジで泣きましたね。
■Clap your hands if you believe
インターネット時代を前提にしたような書き方をしていますが、発想の根っこにあった「自分で見つける物語」の感覚は、(自分の憧れた)『蓬莱学園』の感じと言いますか。こう、読者に深読みさせる系というか。というか、インターネット時代だと、実際のところ、ああいう熱狂って生まれるのかなあという感じもあり。あと(外側からの漠然とした印象としての)『カゲロウプロジェクト』の感じも。どちらも体験してないのよねえ。あと「クラップ・ユア・ハンド・イフ・ユー・ビリーブ」という台詞は、『E.T.』で出てきて、とても好きになったんですよ。E.T.が隣の部屋のクローゼットで読み聞かせを聞いてて、あの細長い指の手で拍手するんですよ。その純真さと、あの奇怪な姿の宇宙人について「君は彼の存在を信じるかい?」という問いかけなんだ、という巧みさと。
■幻想臨終図巻
まんま『人間臨終図巻』。最初は真面目に書けないものかなあと思ってたのだが、実際に考えてみると色々と面白みに欠けるネタだとなり、その「面白みに欠ける」部分をネタに。あと、本の形態としてはコンビニ売りの雑な流行りネタ用の本をイメージしていて、なのでライターの質とかそういう部分もアレな本、という話になった。