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不完全な真実・シーズン8

■6m×6m プロレス新撰組血風録
『リング☆ドリーム 女子プロレス大戦』というブラウザゲームがありました。原作は90年代に展開されていたタイトルで、なので当時から登場しているキャラクターと、新しく登場したキャラクターには、プロレス/格闘技における「文脈」の違いがあって、かつ若い人にはその辺のコンテキストがなかなか通じないな、ってことがあったりしました。で、90年代のプロレスが背負っていた幻想についての話をしよう、と、近過去回顧録形式の青春譚という形を取りました。

■君には死ぬ権利がある
元々「過激な物言いの小説が、真に受けた学生の自殺で、一線を超えたと叩かれた」というメタシナリオを基軸にした話を考えていたのですが、色々と考えているうちに、作者自身はあくまで誠実な方が「人類は愚か」性が高いかな、と当初の予定が変わっていきました。最後は、この書評が存在する「作中」においては周知の事実として作者が自殺してる、というのをオチにしてみた。架空書評という形式が持つ、我々と架空作のあいだに「一枚挟んだ」構造を活かした展開は、できるだけ積極的に、かつ面白くできる部分なので、頑張っていきたい。

■人権商売 増補版
当初は「人権は商売道具」と嘯くピカレスクな主人公を題材にした小説を想定し、本当に善良な人権派弁護士とバディ気味になる構成まで想像していました。が、その説明が存外に難しく、どう書こうかと頭を悩ませているうちに、テレビタレント化した有名弁護士のノンフィクション懺悔録、という形式に変化しました。人権商売、というタイトルは気に入っていますが、これは勿論、元ネタである『剣客商売』というタイトルのキャッチ―さが圧倒的に強いからこそです。

■鋼の年代記
全然違う話を予定していたのですが、そのアイデアがまるでまとまらず、ぼんやりと「ロボットもので、ロボの代替わり・乗り換えがロボットアニメ史を辿ってるとかどうか」という形式を考え、それを形にするために「世代宇宙船と宇宙漂流」という形式になる。作品がジャンル史そのものになるとか、ジャンル史で歴史を辿るとか、そういうのが好きなのは過去にも何度か目先を変えてやっている(狼の架空史で歴史を辿る、とか)ので、まあそういうのが本当に好きなのです。

■恋愛探偵・愛染レンの事件簿
「恋愛探偵」というフレーズありきでした。後で検索したらそこそこ同じアイデアがありましたが、逆にこれだけ先行があるなら、もうこれはジャンルってことでいいだろう、と。で、単純にジュブナイル・ラブコメディということでいいかなあとも思っていたのですが、書いているうちに、恋愛で事件というと、と考えて恋愛/性指向の社会問題との向き合い方、とかが出てきたりしました。「スカート学級裁判」は、ある日クラスの男子がスカートを履いて登校してきたことをきっかけに、学級会で問題が紛糾、みたいなお話しを想像しています。その男子はあくまで異性装趣味であって、それとは別に同性愛指向の子がクラスにはいて、みたいな話が私の脳内には漠然とした形であったりします。

■シモン吸血鬼退治事務所の平穏な日常
『吸血鬼すぐ死ぬ』。いや、あくまで吸血鬼が社会構造の中に取り込まれた世界で、ハンターと吸血鬼が共存している、日常コメディ、というだけで、別段そこが元ネタという話ではないです。参考には大いになるだろうけれども、元々は「おじさんが若者を拾う」系の話として実際書こうとしていて、むしろ「これ、出来の悪い吸死だな」ってなって書くのを止めたぐらいだったり。とはいえ、実際に書けば既存の傑作の大劣化にしかならずとも、書評形式にしてメタにすれば、読者脳内でよりよい形になる、というのがこのアイデアの強みと考えていきたい。

■セイラムからの来訪者たち
当初は本シリーズで度々やっている「サブカルで日本を語る」シリーズの「魔法少女日本史」というアイデアだったのですが、色々考えているうちに小説形式になりました。この手の「サブカルで構成した架空の日本史」は『コンクリート・レボルティオ』というヤバいのがいるので、こういう形式ならともかく、実作を面白く仕上げるのはハードルの高いことです。その意味で、セイレム魔女裁判は実はアイデア的な優先度は高くなくて、これは『奥さまは魔女』や『かわいい魔女ジニー』がアメリカからやってきた魔法少女の原型だ、ということのメタファとして「アメリカ+魔法」という要素を満たしうるアイデアとして用いたに過ぎなかったり。セイレム自体はとっても魅力的な話なのですけれども。

■ソリッドステート・スナイパー
元々は全然違う話を考えていたのですが、ふと、いわゆる「残留日本兵」問題をネタにすることが浮かびまして。現実のそれをネタにできるほど詳しくはないので、フィクションに仮託しようということに。で、廃棄コロニーでサバイバルしながら、近隣を通る商業船を撃墜する戦争の亡霊みたいな男の話が浮かんできたわけです。で、ちょっと思いついてしまったので、書評時空の世界を第三次世界大戦下の世界にしてしまう、というオチに。タイトルは勿論、『ソリッドステート・サバイバー』に由来します。あ、元のタイトルの方は『裏切りのサーカス』の原題『ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ』ですね。

■アルカディア
これは比較的全体のプロットが確度高めに浮かんだパターンで、世界地図の中で空想の旅をしているおばあさんと、世界中を見て回った青年の交流、みたいな話を。アイデアの元は、行った事のない場所への幻想とか、実際に行ってみたらガッカリ名所だったとか、そういうお話しです。主にJGCの体験(日本最大のアナログゲームの宿泊型イベント。昔から憧れていてその最終年に参加したが、普通のコンベンション以下の楽しみしか得られず絶望に打ちひしがれた)がベースという切ない話があったのです。

■新訳・ニューロマンサー 仮想現実の冒険
架空書評という形式を活かしたアイデアとして、「実在する作品の、存在しない本」の書評というのはどうかと考えました。この辺はメタテクストの話にもなるわけですが、つまり『ニューロマンサー』の書評を書いたらそれは架空でもなんでもないわけです。まあ、敢えて平然とそれを書いて「え、これは架空の本ですよ? キミの手元にある? キミ、架空書評世界に入り込んでない?」みたいな手触りにすることはできるのですが。で、どういう理由があれば実在する作品を存在しない書籍として誕生させられ、それに対する書評が元の作品への書評と別のものになるか、と考えた結果が、「海外作品の児童向け抄訳」という形に。思えば、昔読んだあれこれは、抄訳であったような気がするわけで。架空書評でたびたび言及している「引用/翻訳の暴力性」という事例の、一番明白なものであるかもしれません。何しろ、引用/翻訳元が実在するから「暴力性」が発揮されると作品がどうなるのか、が分かりやすいので。あ、あと『ニューロマンサー』を選んだのは、昔読んだ時にめっちゃ分かりにくかったからです。分かってしまえば、ワリと単純な話なのは書評に書いた通り(書評対象のそれはさらに抄訳によって単純化されている)なのですが。

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