ずいぶん昔に、仕事でALSOKの人たちを取材したことがある。
その時、一人の哀しいオッサンと知り合いになった。
40近いそのオッサン、警備の現場の仕事をずっとやって来てて、元柔道部で、ガタイがいい。警備の知識もあって、警備する現場の平面図をパッと見て、「こことあそこと、あそこに最低3つカメラが要る」なんてことをすぐに判断できる。
けれど、社内評価はダメダメなんだ。
当時はパソコンが職場を侵食し始めた頃で、このオッサンはenterキーを見つけ出すのに3分くらいかかる人だから、バイトの女の子には小馬鹿にされるし、何よりノートパソコンを繋げて制御する警備機器がまったく扱えない。
でもね、警備の現場はよく知ってるんだ。逃げる不審者がどういう行動をするか、とか、通報があったときまず何をチェックすべきか、とかね。人間の習性みたいなものをよく知っている。けど、エクセルに経費伝票打ち込めないから、社内じゃあ厄介者。
がっしりした体が哀しく見えたね。
それから数年して、そのオッサンを主人公にした話を書いた。IT化についていけなかった仕事一筋中年男の没落と悲哀、を描くつもりだったんだけど、出来たものは、シンプルな(言い換えれば、単純な)少年マンガレベルの推理ものになってしまった。
しかも、少年冒険小説の単純な世界に、大人向け文芸(小説現代とかオール読物とか)に出てくるようなウジウジと心理葛藤を続ける主人公をぶちこんだというような、チョコバーにフォアグラを練りこんだに近いものになった。
その作品に、ちょっとずつ手を入れながら、今週末あたりから投稿して行きたいと思う。