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創作を愛する心のない人

(本日のお題)
『編集者からの修正指示を守り続けたんだな…』って感じのマンガの第1話を読んだ→案の定2、3巻で打ち切りだった
https://togetter.com/li/2219843


これは……単に編集者が無能であることを天下にさらしただけでは?
口出しすることが仕事だと想ってるような人だったんでしょう。
そしてその指示どおりに描いちゃってる人に対して、何も云わずに紙面発進させるとか、まったく仕事をしてないよね。


新人相手に、最悪ですよね。
眼の前にいるのは、とりあえず受け身で聞き役になるしかない新人。
お金を払って接待してもらうような場所でも出来ないことが、新人相手なら出来ちゃうわけで、そりゃもうアドバイスに名を借りた、頓珍漢な大威張りをしまくりでしょう。
指導する立場を勘違いして、舞い上がって、
「う~ん、あなたの作品はディティールがさぁ。この世界の文明度の高さがさぁ。設定がねぇ~」
みたいなうんちくを垂れて、
賢い俺さまを見せたーい! みたいな。

自称『視野が広い人』のふりをして、『指導できてる』気になって、『これは君のためなんだよ?』を先頭につけて有無を言わさず、云ってる自分だけが気持ちいい。
肝心の漫画家の眼は死んでる。
才能を潰す天才みたいな人を担当にしちゃた悪例、これは。


そんな編集者さんにとっつかまったら、何ひとつ楽しくないまま漫画を「描かされて」、終了しますよね。
編集さんは社員として食べていけるものだから、ノーダメージ。


『編集部の云うことを素直にきくかどうかが、受賞するかどうかの決め手』
そんな話を小耳に挟んだことがあるんですが、これ、プロの半数は「ほ~ん……」と鼻先で笑ってるんじゃないかなぁ。
逆だろ、と。

何か云われて、全部はいはいって素直に変更していく人って、描きたいものが自分にはありませんって云ってるのも同然ですから。


売れっ子さんって、みんな『作家性』のほうが強くて、編集者から口出しはない人が多いです。
【売れることで好きなものを好きに描ける権利を勝ち取った】からです。
でもですよ、この例に出てるような編集さんが新人の頃についてたら、彼らなら早い段階でキレて大喧嘩していたと想う。
とくに男性漫画家。
そんな逸話は実際にちょこちょこありますもんね。
まあそうやって売れっ子になってしまって誰も何も云えなくなったが為に、惰性だけで走ってる、そういう作品も沢山ありますけれど。


念願叶ってプロになった漫画家さんも、編集さんから何か云われた時に「確かにそうだな」と想うことは変えたらいいけど、納得できない点については、納得できないままでいい。
売れるようになったら、もっとはっきり、
「わたしを信じて下さい」
と云えるくらいの強いものはデビュー時から持っていた方がいいんじゃないでしょうか。
結局、何十年と第一線で売れてる人って、そういう人たちだけが残ってますから。


カクヨム発だったのかどうかは知りませんが、書籍化した後打ち切りになった方の体験談を読んだんですけど、
本人は、「そこをそんな風に書いたら、話の流れが途切れる……」と内心ではずっと想ってたそうなんです。
でも編集さんは、
「説明しないと読者は分からない」
としきりに言ってくる。
読んだ上でそう云っているのか、それとも『読む力』なんてなくて、描写が少なくみえるところ全てそう云ってるだけなのかは不明ですが、とにかくしきりに、「説明が足りない」と云われた。

設定厨である自分を見せたい! そんな気持ちが強いだけの、人材育成がまるでできない担当さんだったのかもしれません。
「これはどういう設定?」と突っ込みまくる。
新人さんはその説明をさせられる羽目になる。作品全体の流れや面白さには眼を向けない。
粗探しだけはする。

新人だから、云われるままに、そう書いた。
結局、打ち切りになった。

打ち切りになった理由はそのせいなのかどうかは分かりませんが、『編集者からの修正指示を守り続けたんだな…』って感じのマンガの第1話を読んだ~と、この話は、まったく同じだなーって。



リンク先では映画「セッション」が描写の好例として出てましたけれど、この記事を読んだ時に頭に思い浮かんだ映画は、「キル・チーム」でした。

部下の気持ちがよく分かり、寄り添えて、規律もゆるいところと厳しく締めるところを使い分ける。
兵士を戦場でリラックスさせるのが巧く、部下の素質を見抜く眼もすごくある。
理想の上司、話の分かる敏腕カリスマ軍曹。
私生活では国にいる幼い息子を溺愛する心の優しい良き父親。
そんなパパの趣味は武器も持たない民間人の殺人さ。

民間人の殺人。

軍法会議にかけたら一発アウトです。

そんなチームにいる新兵の映画なんですけど、この新兵、ハイスクールからそのまま出て来ました風で、現場向きじゃない。
現場向きじゃないだけに良心はまだ持っている。
カリスマの上官がやることも、「それは犯罪だ」と分かってる。
でも下っ端だから上官になかなかそれが云えないの。

思い悩んだ彼は退役軍人の父親にメールで相談をする。父親も息子のために一生懸命アドバイスをする。
その間にも、戦場では殺戮が続いている。
なにをためらう?
これは『正義』なんだ。
殺すことが兵士の仕事なんだ。
しだいに正義を曲げて自分に言い聞かせる主人公。

結局、新兵は自分も加担してしまう。
そうしたら露見して、まとめて軍事裁判行き。
仲間を告発したのはチームの中で唯一正義を貫き、貫いたことで孤立して暴行をふるわれていた兵士。
カリスマ上官は無期懲役、いじめに加担した主人公にも実刑が下る。
子どもの頃から憧れていた海兵隊になれたのに、最悪の形で夢は終了。

典型的な、いじめに加担してしまった人間の末路。
そんな、ザマァ展開。

そんな映画なんですが、あの場にいたら、あの上官に逆らえたでしょうか。
「う~ん、この設定がねぇ~。ここの比喩がねぇ~。いやいや、何も描かないボクの方が君よりもずっと才能があって悪いね! ま、出来が悪くて視野の狭い君も頑張って、ボクの水準になってもいいんだからね~」
そんな態度の担当さまさまさまに、ようやく書籍化デビューを果たした新人が、何が云えたのでしょうか。


創作を愛する心のない人。
そんな人間が担当になることほど、悲惨なことはない。
本当にかわいそうです。



▶「或る伯爵夫人の回想」
「貴方のもとに嫁ぐとき」の後日譚。
登場人物が重なっているので本編読了後推奨ですが単品でも読めます。


▶「月曜日のブレンダ」
当時、「I Don't Like Mondays(哀愁のマンデー)」という歌まで生まれた事件が元ネタ。
クリスマスの贈り物に16歳の女の子が親からライフルもらえるとか、アメリカの銃社会ってすごいですね。
クソ生意気になっているお年頃なので、主人公は16歳らしい尖がり方をしております。



4件のコメント

  • 本日も朝吹節が突き刺さりますね。
    新人と編集者の関係。これって他の業界だと例えるのが難しいですね。上司と部下でもないし、先輩と後輩でもない。ただ編集は新人を売れっ子に育ててナンボだし、でも新人が育たなくても編集者には痛手は無い。理不尽な世界なのかもしれません。
    せっかく新人としてデビューしても、編集者ガチャで失敗……目も当てられませんね。

    私の好きな作家のひとり、西村賢太氏は編集者と喧嘩して絶縁することしばしだったようで(まあ、この作家も癖が強いので……)、後々編集長が仲介して仲直りをしたりしなかったりしていたようです。
  • スミヲさん

    よく作家と編集者は二人三脚って云ったりしますよね。
    プロになった途端に、それまで一人でやっていたものが共同作業になるという不思議。
    ひとりでもヒットを生み出せる人以外は、み~んな編集者さんと打ち合わせを何度も重ねて、作品を創り出していくんですよね。とくに漫画。

    上手に育てることが出来るのは『立派な才能』です。
    編集者さんにも向き不向きがあるし、作家さんとの相性も大切だし、大変なお仕事です。
    なんだかんだで我が強い人が多いので、相手に合わせてきちんと受け身を取れる人だといいんでしょうか?

    いちばん最悪なのが、自分ではプロになる夢を断念して編集側に回ったんだけど、実はまだ夢を諦めていなくて、自分の夢をかぶせてきちゃう人でしょうね。
    「あんたのゴーストライターじゃないし……」
    そんな応酬になったら、目も当てられません。

    主に男性、担当と大喧嘩する話はちょこちょこ聴きます(笑)
    だいたいのことは心に蓋をして聞き入れるはずなので、何があったらそんなことになるんだろうって思いますけれど、超ムカつくとんでもない編集者は実際にいそう(笑)
  • お題とは直接関係ないですが、記憶が蘇ったので思わず――もう二十年くらい前の事、よく漫画原稿の投稿、持ち込みをしてまして(大手の目ぼしい出版社はほとんど行ったかも)。

    或る時、某出版社から定額小為替(今もあるのか?)が送られて来て、どうやら努力賞の賞金のようでした。

    大分経ってからその出版社に再び持ち込みをした時だったか、以前、努力賞を獲った事を話したら「だったら担当が付いた筈なのに」という事で調べて貰ったら、当時の編集者がたまたま移動のタイミングでそれ切りになってしまったらしいとの事で。

    誰かのほんの都合で誰かの将来が変わってしまう――そういう現実を知った気がした、というお話でございます(結局は漫画の夢から遠ざかりましたが)。
  • そうざさん

    えっ。そうざさん漫画家志望だったのですか。
    なにかと関連する前職をお持ちの方はちょいちょいお見掛けしますが、そうざさんに漫画を描くイメージはまったくなかったです。
    持ち込み、担当さんの言うことも各出版社で違っていたりして、面白かったのでは?

    出版社側もどんどんネット投稿に切り替えているみたいで、昔ながらの持ち込みは減る一方でしょうね。
    それよりも今は原稿用紙に墨汁とペンで描く人自体、減っちゃったでしょうか。
    トーンってあるじゃないですか。
    あれ、原稿の線に合わせてカッターで切りますよね。
    下の原稿用紙も切ってしまわないのか? ってずっと不思議だったんです。
    上手に、上の一枚だけを切ることが出来るカッターを使い、力加減で何とかしているのですね。
    それも今なら画面で指定してクリックするだけでトーンが貼れてしまうのです。
    便利ですが、職人技がなくなるようで少し寂しい気がします。


    努力賞にまで結び付いていたのに、何だか悔しい話です。デビュー候補生になれたはずなのに。担当さんがついて、「よし、この作品でデビューしよう!」とか出来たはずです。もったいない。

    漫画家さんも食べていくのは大変な世界ですから、漫画家になれなくて良かったのかもしれませんが、『担当さんがつく』って憧れますよね~。
    マネージメントに才能のある、創作エンジンに火をつけるようなプロの担当さんの後押しを、一度は経験してみたいものです~。
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