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『彼女が好きなものはホモであって僕ではない』小ネタ解説(微ネタバレあり)&レビュ返

 2018年本屋大賞ノミネート作品が発表されましたね。

 僕の推しは『スウィングしなけりゃ意味がない』(著:佐藤 亜紀)だったのですが、入ってませんでした。残念。まあ結果は受け止めます。でも2018年浅原大賞は『スウィングしなけりゃ意味がない』です。素晴らしい作品なので良かったら読んでみてください。KADOKAWAだし(媚び)

 それでこの『スウィングしなけりゃ意味がない』、戦時下の抑圧されたドイツをジャズ(当時は敵性音楽)に傾倒した少年たちが「戦争なんてダセえ!」としたたかに生き抜くお話なんですけど、僕はジャズにもドイツにも詳しくないので意味不明なワードが解説なしで大量に出てくるんですよ。まあ浅原大賞に推せるぐらい面白く読めたので別に問題はないのですが、この間、ふと気になったんですね。カノホモにはそういう「解説がないと分からないネタ」がどれぐらいあるんだろう、と。それで、高校生視点で書かれた日本舞台の現代小説だし、あまりないだろうと思って調べてみたんですが……

 ……結構ある?

 というわけでレビュ返がてら解説をすることにしました。基本はQueen絡みです。読めば理解が深まる……かどうかは分かりませんが、謎は解けると思います。では、どうぞ。

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【ネタ】(1-1より)
『フレディのレベルに達してさえ、同性愛傾向があったからこの曲を書けたと言われる楽曲は山のようにある。フレディではなくブライアンやロジャーやジョンが書いた曲に同じことを言う輩すらいる』
『ブレイク・フリーとか?』
『そう。あれはPVのせいもあると思うけど』

【解説】
 Queenの曲に『I Want To Break Free』というものがあって、そのPVでQueenのメンバーが女装をしているんです。しかも歌詞がリベラル寄りでいかにも「マイノリティのための歌」っぽいんですね。実際、フレディがインタビューで「ゲイに向けた曲ですか?」と言われたという話もあります。

 でもこれ作ったのフレディじゃないんです。ジョン・ディーコンというQueenのメンバー。女装もこれまたQueenのメンバーであるロジャー・テイラーの発案で『コロネーション・ストリート』というイギリスのドラマのパロディだとか。というわけで色眼鏡で目が曇る事例として挙げました。分からなくても話は通じるけど分かるとより通じる小ネタ。

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【ネタ】(1-2より)
 愛用の携帯音楽プレイヤーを取り出し、イヤホンを耳に挿して、アーティスト『QUEEN』指定でシャッフル再生を開始。アイスコーヒーを持った三浦さんが現れた時、イヤホンからは『キラー・クイーン』が流れていた。男殺しの女王様。三浦さんが?

【解説】
 ジョジョの奇妙な冒険ファンの方にはお馴染みの『Killer Queen』。歌詞が男を惑わず魔性の女を書いたもので、それが「男殺しの女王様」という文に繋がっています。ちなみにこの曲、フレディが当時惚れていた男性のことを歌ったものだという説があります。眉唾ですが、本当だとしたら大胆すぎる。

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【ネタ】(1-2より)
 三浦さんが学生鞄からスマホを取り出して弄る。そして競泳パンツを履いた少年たちのアニメ絵が映し出されたディスプレイを、僕にずいと突きつけた。
「安藤くん、これ知ってる?」
 知っている。高校の水泳部を舞台にした腐女子に人気のアニメだ。

【解説】
 これは分かる人多いでしょう。『Free!』です。なおこのちょっと後に「イメージアニマルがペンギン」というキャラが示唆されますが、それは「葉月渚」というキャラです。そこで出る池袋サンシャイン水族館に同じ名前のペンギン(渚くん)がいるというネタは本当。まだいるかどうかは知りませんが、ファンの方は見に行ってみてもいいかもしれませんね。ただのペンギンですけど(暴言)

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【ネタ】(2-4より)
 真摯で誠実な回答が頭に浮かぶ。だけどそれは声にならないまま、QUEENのメンバー、ブライアン・メイが奏でる激しいギターソロのイントロにかき消される。頭の中のジュークボックスが再生する曲は、アルバム『ザ・ミラクル』より、『アイ・ウォント・イット・オール』。

【解説】
 これは知らないと分からないというより半端に知っていると分からないネタです。というのも世に広く出回っている『I Want It All』は、ギターソロから始まらないのです。

 バージョンでイントロが違うんですね。『The Miracle』では書いた通りギターソロから始まりますが、シングルバージョンや『Greatest Hits Ⅱ』などの他アルバムではコーラスから始まります。youtubeのofficial動画もコーラス。でも僕はギターソロの方が好きなのでそちらを採用し、アルバム名を記述しました。同じ曲のバージョン違いで自分の好きな方がマイナーってあるあるだけど切ない。

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【ネタ】(5-4より)
『アナザ・ワン・バイツァ・ダスト』。地獄に道連れ、だ。

【解説】
 これまたジョジョラーお馴染みの『Another One Bites the Dust』。この曲の邦題が『地獄へ道連れ』なんです。どう訳してもそうはならないので知らないと絶対に分かりません。ジョジョでは「Another One Bites the Dust(負けて死ね!)」と表記されていましたね。これまたなんでそうなったのかは分かりませんが。

 ちなみにこのネタ、かなり重要なシーンで出てくるので入れるかどうか悩みました。でもこういうのサラッと書いてあるのカッコよくて好きなので入れました。結果としては「一部が当たり前に共有している世界を大多数が理解できない」という章の主題とオーバーラップし、演出として機能しているので良かったんじゃないかなと思います。

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【ネタ】(6-2より)
 母親(ホモ)の意味は、僕にも分からないから説明できない。何の前フリも解説もなく男なのだ。認めるしかない。

【解説】
 担当編集さん(男性)が疑問に思ったらしいので解説しておきますが「母親が何の解説も前フリもなく男」はBL星ではありえます。担当さんはBLレーベルの編集さん(女性)に確認を取り「普通にあるけど?」的な返しをされたそうです。BL星すごいですからね。個人的に特にすごいと思うのは、男が敵対する男やいけ好かない男に一泡吹かせたいと考えた時に「強姦する」が選択肢の割と上位に来ること。スラムすぎる。

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 以上、小ネタ解説でした。他に聞きたいことがありましたらコメント等でご質問ください(出来ればネタバレっぽくない聞き方をしてもらえると助かります)。知っている範囲で回答いたします。よろしくお願いいたします。

 ところで、こういう少しマニアックな要素が出て作者がチラッと見える感じ、読者はどう感じるものなんでしょう。ちなみに僕は好きです。うろ覚えなので間違っていたら申し訳ないのですが、松岡圭祐先生がなんかの小説で部屋の描写をした時、飾ってある戦闘機のプラモデルの描写が異様に細かかったんですよね。「ソファがある。テーブルがある。タンスがある。タンスの上に戦闘機のプラモデルが飾ってある。機種は〇〇だ。この〇〇は××が特徴で(以下専門的な解説が五行ぐらい続く)」みたいな。要るか要らないかで言われたら要らない記述でしょうが、僕はそれを好ましく感じました。まあ、限度はありますけど。


-----(「彼女が好きなものはホモであって僕ではない」へのレビュ返)-----

 hyu 様
 
 ありのまま生きるためには、自分を好きになる必要がありますよね。それでこれ上手く伝わらないかもしれないんですけど、僕は自分を好きになるのは大事だけど、他人から「自分を好きになろうよ!」って言われるのはめんどくさいなと思うんですよ。でもいつまでも悩んでいるのも不毛だから「この生きにくい世の中をそれでも生き抜くために『自分を好きになる』という選択肢があるのですが一つご検討いただけませんでしょうか」ぐらいの提案が必要だと感じていて、この小説にはそういう役割を果たして欲しいと願っています。


 河東竹緒  様

 僕もそれなりに本を読んできましたが、振り返ってみるとやはり「人生を変えた」と断言できる本がいくつかあります。読む前と読んだ後で世界が変わった本。そういう体験を本作が提供できたのであれば、自分にとってこの上ない喜びです。


 十七夜 様
 
 性的マイノリティーに限った話ではなく「オタク気持ち悪い」とかも含め、他人の生理的嫌悪を拭うのは無理です。なので生理的嫌悪感を理由にした要求が通らない世界になっていればそれでいいと思うんですよね。「隣の席のゲイ(オタク)が気持ち悪くて仕事になりません!異動させて引き離して下さい!」という要求に「分かった。離してやろう。ただし異動するのはお前だ」という返事が来る世界になっていれば、それで。なお現代日本はどうかというと、もしこの要求を出したのが部署で一番仕事の出来る人間だったらと想定すると、まだ怪しいのではないかと考えています。


-----(「お前はすでに死んでいる。」へのレビュ返)-----

 藍川竜樹  様

 僕はミステリ+不思議要素、割と好きなんですよ。限定空間でしか通用しないロジックをベースに物語を解きほぐす感じが。そんなわけでこんな話になっているわけですが、苦手な方にも「楽しめた」と言っていただけたのは非常に嬉しいです。


 柿崎 憲 様

 公式に取り上げていただいてありがとうございます。おかげで星やフォローやPVが結構増えました。ただ「クリスマスぼっちが楽しく過ごすための」という枕詞が引っかかりますね。恋人たちの聖夜にふさわしい愛の話なのに……。


 真己 様
 
 レビューありがとうございます。ミステリーと現代ドラマとコメディを足して、3で割る作業を放棄した結果、こういうものが出来上がりました。なお、すぐ上で恋人たちの聖夜にふさわしい愛の話とか書いてますけど、クリスマスの過ごし方については一度考え直した方がいいと思います。

4件のコメント

  • 浅原様

    ご丁寧にお返事をありがとうございます。
    ワシ自身、価値観や在り方を(たとえそれがそう在るべき、”正しい”ものであったとしても)他人から勧められたり、さも当然の様に(しかも善意しかない風で)言われると、どうにも素直に受け入れられないと言うか、そう、メンドクサイ!ってなるタチなので、浅原さんの仰ること、よく分かります。
    なので、例えば作者の訴えたい何かが全面に出過ぎていたり、押しつけがましい描かれ方をしていたりしたら、とてもじゃないけどここまで惹きつけられることはなかったと思いますし、納得して、そうだよな、と思えなかったと思います。
    物語を読むことで、自然とあのように(レビューで書かせて頂いたように)思うことができたので、ホント、とてもいいものを読ませて頂いたな、という気持ちです。

    遅ればせながらですが、書籍化おめでとうございます……!
    身バレが怖い自分は、ネットで見つけた良い作品をオフの友人にオススメできないもどかしさがあるのですが、これでやっと布教できます(*'ω'*)
    続報、楽しみにお待ちしておりますね。
    小ネタ解説も楽しく拝読させて頂きました^^
    それでは。失礼いたします。
  • hyu 様

    はじめまして。レビュ返にさらに返事来たの久々ですごく嬉しいです。そういえば一つ書き忘れてたんですけど、某氏ってあの方ですよね。どこかでお礼を……めんどくさいからここでいいか(オイ)。ありがとう某氏(待て)

    価値観の押し付けは困りますよね。例えば、ハゲで悩んでる人に「なんでハゲなんかで悩んでるの!ブルース・ウィリスだってハゲだよ!」とか、デブで悩んでる人に「なんでデブなんかで悩んでるの!サモ・ハン・キンポーもデブだよ!」とか声かけたところで、「知らねーよ〇ね」って言われて終わりだと思うんですよ。思うんですけど、これと似たようなことやっちゃう人は割と居るんですよね。そういうことされるとマイナス方面に意固地になっちゃうので、自作がそうなっていないかどうかは懸念していたのですが、自然に受け入れられたという言葉をもらえてほっとしました。

    書籍化のお祝いもありがとうございます。本件に関しては全く遠慮するつもりはないので、ぜひ布教しまくって下さい。今後ともよろしくお願いいたします。
  • 作品の質問を受け付けているという事で、一つ質問させて下さい!

    小野君とクイーンの好きな曲について話す件がありますが、あれはどういった意図があったのでしょうか?

    あのメッセージが分からず、亮平君と同じく、2人だけで分かり合ってずるい!となりましたので、教えて頂きたいです。m(__)m笑
  • ぽち 様

    あれは「2人だけで分かり合ってずるい!」と思って頂ければ正解です。
    まあ要は近藤さんの言ったことです。人間なんだから合うところと合わないところがある。その体現
    あと小野があそこまで頑なになった理由の一つですね

    コメントありがとうございました
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