お久しぶりです。どれぐらい久しぶりかというと、前回の近況ノートが4/21なので約二ヶ月ぶりです。まだカクヨマーを名乗っていいのだろうか。審議が要る。
さて二ヶ月ぶりの近況ノートは、★やPVの少ない作品に絞り、僕が気に入った作品を紹介する「隠れ名作を見つけた」のコーナー第五弾です。今回取り上げる作品は自分で見つけました。大事なことなのでもう一度言います。自分で見つけました。今回は「隠れ名作を教えてもらった」ではありません。自分、スコッパーですから(ドヤア
さて、今回紹介する作品はこちら
はんぶんこの、おぼろくん 著者:犬飼鯛音
https://kakuyomu.jp/works/1177354054882964241 この作品を読んだきっかけは主筋が拙作「彼女が好きなものはホモであって僕ではない」と似ていたからです。LGBTな男子高校生とヘテロな女子高生の恋愛的なサムシングを描く小説。大きく違う点はカノホモの男子高校生はG(ゲイ)だけど本作の男子高校生はT(トランスジェンダー)なこと。そしてカノホモの主人公はマイノリティ側に属する男子高校生だけど、本作の主人公はマジョリティ側に属する女子高生なことです。
物語は、主人公の小春ちゃんが自分の好きな男子であるおぼろくんの女装姿を偶然目撃するところから始まります(この秘密目撃からのスタートも微妙にカノホモと被る)。その女装描写は以下の通り。
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彼は、まったく上手くいっていない、男丸出しの女装をしていた。付け毛を取り付けご満悦といった具合にロングヘアーをシャラランと揺らし、密やかな笑みを湛えている。その顔には日の丸の国旗みたいな頬紅に、唐辛子にも負けない攻撃的な赤い口紅といった、極端な化粧まで施されていた。
首元には皺だらけのスカーフ。首から下は、魚肉ソーセージ色のカーディガンと、丈の合っていない白いワンピース。そして足元だけは男物の革靴という衝撃のコーディネートだ。
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要するに、ひどかったわけです。あまりのひどさに小春ちゃんは「大好きなおぼろくんが女装している」より「大好きなおぼろくんの女装がひどすぎる」という点に意識を取られ、衝動的に美容師をやっている兄のところまでおぼろくんを連れて行きます。そして兄におぼろくんの女装を修正してもらい、おぼろくんの心が女の子であることを知り、それでもおぼろくんを好きだという気持ちを止められず、「心が女の子の男の子が好き」という複雑で不毛な状況に飲まれて行くことになります。
この話はあくまでも「小春ちゃんの恋」の話。ここが「性的マイノリティの苦悩」の話であるカノホモと決定的に違うところです。おぼろくんの苦悩描写はありますが、それは常に「大好きな男の子が苦しんでいる」という形で描かれます。おぼろくんが感じている生きづらさは一旦小春ちゃんの中で噛み砕かれ、それから読み手に伝わる。このワンクッションが「トランスジェンダーの苦しみ」ではなく「おぼろくんの苦しみ」を表現することに一役買っており、等身大の苦悩は大仰な社会批判よりもずっと心に刺さるものとなっています。
また「小春ちゃんの恋」の話ということは作品の軸は当然「恋」になるのですが、設定が設定なので「好きになってもらうために努力する」とか「イベントで距離が縮まる」とかそういう起伏を作れません。かと言って別軸を使いすぎると主軸がブレる。カノホモと比べて恋心にフォーカスした分、作劇難易度が高くなっていると言えます。
そんな中、この作品を成立させているのはすさまじい表現力。あえて表現力の無い表現で表現しますと、マジでガチ半端ないです。特にカメラの動かし方というか、焦点の当て方が本当に上手い。「そこ見るかー」と感服するしかないところにバシバシとレンズが向けられ、見ているものを情感豊かに表すための言語選択と比喩のセンスも抜群。ドラマではなく表現で作品が読めるためリアリティを犠牲にしない話運びが可能となっており、類似テーマでだいぶエンタメ展開に頼った身としては羨望を抑えきれないものがありました。
小春ちゃんの恋は、誰の目にも明らかに詰んでいます。「魔王は聖剣でしか倒せないのに聖剣持ってない」ぐらいどうしようもありません。レベルや立ち回りの問題ではなく根本的なところで勝てないのです。なのに小春ちゃんは戦いを止めない。魔王に挑み続ける。その果てに待っているものは何なのか。結末は、皆様がその目でご確認ください。
なおいつもの通り、面白い面白くないは感性の問題なので「読んだけど面白くなかった」みたいな苦情は受け付けません。ご了承下さい。
-----(「彼女が好きなものはホモであって僕ではない」のレビュ返)-----
鳥海勇嗣 様
衝撃的レビュータイトルからの愛溢れる本文、ありがとうございました。ワードに貼り付けてプリントアウトってもはや編集者ですね。深い読み込みに感謝いたします。
樋口めぐむ 様
日本は「違うこと」と「敵であること」の距離が国民性としてかなり近いので、「よく分からないけれどとにかく違う奴ら」という印象を生み出しかねない最近のLGBT推しには怖い面もあると考えています。そうじゃない、違う面もあるけれどやっぱり同じ人間なんだということを、本作が伝えることが出来ればと願います。
-----(「曇り空のZOO」のレビュ返)-----
木遥 様
粗が目立つので一旦非公開にしようかなと思っていたところにレビュー頂き、大変励みになりました。ありがとうございます。僕もアライグマの話が一番好きです。