レビュ返をしなくちゃいけないけれどネタが思いつかず近況ノートを放置し続けて三週間。そろそろヤバイことになってきたので久しぶりにいっちょやってみたいと思います。
とりあえず近況ノートなんで近況を語りますと、忙しいです。もうちょっと具体的に言うと、僕は極東の島国に蔓延する言葉なき同調圧力と歪んだ選民思想が嫌で中国に亡命した――わけではなく普通に仕事で駐在しているのですが、その仕事仲間の一人が日本に帰ることになりました。するとグループでお世話になっている日本料理屋とか、飲み屋とか、詳しく説明すると「浅原さんそんなところに行くんですか?幻滅しました……河東さんのファンになります」となりかねないお店とかに檀家回りをする必要が出てきます。そういうわけで忙しく、ちょくちょく日付変更線を跨いでいるわけです。ちなみに四月はまた別の人が日本に帰るので同じことが繰り返されます。助けて。(なんかTwitterでメンヘラ化していたので別に嫌ってないですよという意味で河東さんの名前を勝手に使いました。すいません)
さて、そんなこんなで連載中作品の更新頻度も作品練度もガタガタで、夏に仰向けになって路上で寝転がっているセミの如く生きているのか死んでいるのか分からない状況ではあるのですが、ありがたいことに作品へのレビューや応援コメントは継続的に頂いております。で、ここからが本題なのですが、先日「小笠原先輩は余命半年」に阿瀬みちさんから以下のような応援コメントを頂きました。
「男性作者の描く女性一人称で今までで一番自然に読めた作品でした」
「自慢かよ」と思った方、半分正解です。素直に悔しがってくれると僕は嬉しい。しかし本近況ノートで詳しく語りたいのは残り半分、「女性が自然に受け入れられる女性キャラとはなんぞや」です。女性読者は男性が書く女性キャラのどこに引っ掛かりを覚えるのか。そんな感度品質の話をいくら考えても正確になんて分かりっこないのですが、敢えて考察してみることで女性読者に受け入れられやすい女性キャラを書くための方法を探ってみたいと思います。
ところで、ベクデル・テストというものをご存知でしょうか?
背景とか細かいところを語ると長くなるのでそれはウィキぺディアを読んでいただくとして、かいつまんで説明すると「創作物における女性へのジェンダー・バイアスを判定するテスト」です。元々は映画を対象としたテストだったようですが、今は小説含むあらゆるフィクションに用いられています。テストのチェック項目は非常にシンプル。以下の三つだけです。
1.少なくとも2名、女性が出てくる。
2.互いに会話をする。
3.話題は男性以外のものである。
ここに「2人の女性には名前がついていなければならない(モブキャラ同士の会話は対象外)」や「最低60秒は会話がなければならない(挨拶程度の会話は対象外)」などの条件が加わることもありますが、基本はこれだけです。要するに女性が二人出てきて、男性について以外の話題で語りあえば合格。逆に言うと女同士で顔をつきあわせて話すシーンがあったとしてもそれが「彼とはどうなってるの?」みたいなものばかりだったら不合格です。(ちなみに僕がこれを知って最初に脳内テストした映画は「プリティ・ウーマン」でした。売春婦仲間と将来について語りあうシーンがあったので合格のはず)
このテストが面白いのは、こんなにもシンプルな要求なのに意外なほどにクリア出来ないところ。女性を二人出して男性以外の話題で会話させるだけ。人類の半分が女性であること、恋愛なんて人生の一要素に過ぎないことを考えれば自然とクリアしてしかるべき条件(と言っても男性一人称小説だとそこそこキツイか)なのですが、なぜか結構な数の創作物が合格しません。僕の長編作品も「彼女が好きなものはホモであって僕ではない」はどうにかクリアしていますが「僕とぼくと星空の秘密基地」は条件2に引っかかって不合格となります(十歳の男の子が主人公の作品に適用するテストではないとは思いますが)。
要するに創作界隈における女性へのジェンダー・バイアスはそれぐらい強いということです。どこかに「創作物において女性は男性の添え物」という意識がある。それが「女性の目から見て自然と受け入れられない女性キャラ」を生む一つの要因なのではなのかもしれません。
話題に上げた「小笠原先輩は余命半年」も語り手は女性ですが話の軸は男性の小笠原先輩なので物語構造は男性主体です。それでも女性読者の方にすんなり読めると言って貰えた。その理由は語り手の「わたし」が小笠原先輩の添え物になることなく、主体を手離していないことに一つ要因があるのではないかと思います。
「小笠原先輩は余命半年」の語り手は「平凡な自分が好きではない」という悩みを抱いています。そしてその悩みの解消に小笠原先輩をある意味で「利用」します。「自分」がメインで「小笠原先輩」がサブなわけです。
しかし「変身願望」と「異性への恋慕」が合わさる恋愛系創作物には割とありがちなパターンなのですが、これが「小笠原先輩に愛されるために平凡な自分を変えよう」となるとメインとサブが逆転します。こうなると女性読者は「ん?」と首を捻ったのではないでしょうか。要するに「いかにも男が考えそうな中身のない都合のいい女だなあ」と思われてしまうのではないかと。
結果としてそういう方向に行かなかったのは、僕が「小笠原先輩は余命半年」を書く際に「語り手が女性だから女性らしさを出そう」とあまり意識していなかったからだと思います。あまり考えずに書いた結果ジェンダー・バイアスが自然と外れた。「女性を書こうとしなかったから女性が書けた」という一種の矛盾を孕んだ結果が生まれたわけです。
まあつまり「考えすぎは良くない」ということです。
長々と考察を垂れ流した末にこの結論は自分でもどうかとは思うのですが、そうとしか言いようがないのだからしょうがない。どうせ異性の内面なんて考えても分からないのだから、いっそ異性だという意識を取っ払って思うさま書いた方が受け入れられるかもしれません。ちなみに僕は近況ノートでこすっからいことをよく書くので周囲からはガチガチの理論派に見えていると思うのですが、小説は手なりで書く感性派だったりします。今上げている作品で書く前にプロットを作成したものは一つもないです。
なお余談ですがこのベクデル・テストには色々と派生があり、LGBTへのバイアス度を測るルッソ・テストなるものも存在します。ルッソ・テストのチェック項目は以下の三つ。
1.映画がレズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダーと認識できるキャラクターを最低ひとり含んでいる。
2.そのキャラクターは性的指向や性自認のみによって、あるいはそうしたものにより大幅に規定されているようであってはならない。
3.そのキャラクターは、いなくなると重要な影響がある程度にプロットに絡んでいる。
カノホモは条件1と3は余裕のクリアですが、条件2は抽象的過ぎて何とも言い難いですね。しかし条件2……いや、言いたいことは分かりますよ。でもこの設問、テストで言うなら選択問題じゃなくて記述問題じゃないですか。チェック形式にする意味ありますかね、これ。なんかもう条件2だけでいいんじゃない?
-----「彼女が好きなものはホモであって僕ではない」へのレビュ返-----
梧桐 彰 様
まず何はなくともチャレンジが成功したようで良かったです。僕はこの作品はヘテロな男性にはなかなか届きにくい代物ではないかと考えており、そんな中「面白くて為になる」と言っていただけたことはとても励みになります。
山野ねこ 様
山野様にご紹介いただいてから一気に評価が増え、二日程度ですが現代ドラマ部門1位まで行きました。ありがとうございます。改善要望は出さないようによろしくお願いします。サブ垢★30祭りが始まるので。
有野実也 様
長い話を一気読みしていただきありがとうございます。単純なマジョリティVSマイノリティの構図にはしたくなかったので、登場人物それぞれの価値観を感じていただけたことは非常に嬉しいです。
穂高美青 様
応援コメントと合わせ、深い思い入れを感じる言葉をいただき恐縮です。自分の紡いだ物語が穂高様の人生を支える柱の一つになれたことを誇りに思います。
なお表紙の話については「ほのぼのエッセイ」の日野侑さんに強い共感をいただき、Twitter上で装丁案まで貰ってしまいました。せっかくなんで貼っておきます。
http://imgur.com/a/V9b1b-----「ある同性愛者のクリスマス」へのレビュ返-----
山野ねこ 様
本近況ノート二回目のレビュ返。カノホモに続き、こちらもお読み頂きありがとうございました。
坂口 修治 様
共感できるように書けていて安心しました。個人的にはまず「マイノリティは絶対数が少ないだけでどこにでもいる」という現実を意識してもらうことが、この手の悪意なき重圧を減らす第一歩なのかなと考えています。
-----「小笠原先輩は余命半年」へのレビュ返-----
山野ねこ 様
三回目。そろそろレビュ返いらないと思っているんですが、駄目ですか?駄目ですか。そうですか。一人称物語の語り口という小説の醍醐味を褒めていただき光栄です。ありがとうございました。
灘乙子 様
アメリカ青春バカ映画、分かります。幸せになりますよね。幸せ以外の全てを置き去りにすると言ったほうが正しいかもしれません。余命ものとは全力で反する方向性を余命もので実現できたことに、創作者として強い手応えを感じました。
里宇都 志緒 様
レビューに加えて応援コメントまで頂き、ありがとうございます。本作、他の何が足りなくとも勢いだけはあると自負しております。一気に読み終わった後に名残惜しさを感じる、良い読書体験をして頂けたようで何よりです。
-----「お前はすでに死んでいる。」へのレビュ返-----
ひつじ 様
この話、骨子だけを捉えるととんでもなく強引な話なんですよね。そこに説得力を持たせるだけの筆力があると言って頂けたことは今後の執筆において強い励みとなります。ありがとうございました。
山野ねこ 様
四回目。四作レビューは僕史上トップタイです(しかし同率一位が他に二人もいるという。自慢ですけど凄くないですかこれ)。わけの分からない話に最後までお付き合い頂き、ありがとうございました。