「どれだけボロボロのものでも、最後に壊した人が壊したことになる。だからみんな、花瓶にヒビを入れるのは良くても、割ることは嫌がる。『花瓶を割る人』を押し付け合って生きている。その人が言っていたのは、そういう話です」
(「僕とぼくと星空の秘密基地」 序章「僕」より引用)
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これが本作「僕とぼくと星空の秘密基地」(以下「僕ぼく」)のメインテーマです。ボロボロの花瓶を、ボロボロだと分かっていながら、それでも割れなかった人たちの破壊と再生の物語
何かを壊すことには必ず痛みが伴い、ゆえに多くの「花瓶」が割れる本作の雰囲気は決して明るいとは言えません。夜空の星がどれほど煌びやかに輝いていようとも、太陽が燦々と大地を照らす昼には敵わない。家庭環境に少し問題のある少年と、家族を失い一人孤独に生きる老人の心の交流は、温かいながらもどこか影のある仄暗い気配を纏って進行していきます。
しかし、それでも星空は美しい。
太陽の観察を趣味としている人はあまりいませんが、星の観察を趣味としている人はたくさんいます。人工の建造物に人工の星空を投影してただ眺めるプラネタリウムという施設すら存在します。星空に魅了された太古の人々は星と星を線で繋ぎ、「星座」と呼ばれる物語を築きもしました。まるで、暗闇の中で光り放つ星々に「人生」を見出そうとするかのように。
星空が、人生がそうであるように、「僕ぼく」は手放しの喜びに満ちた作品ではありません。ですが星空が、人生がそうであるように、物悲しさや切なさの中にひたむきな美しさを秘めた作品に仕上げたつもりです。読了後に感じるものは闇ではなく光。絶望ではなく希望。そういう物語になっていると書いた僕が保証します。
大人の「僕」の回想と子どもの「ぼく」の体感を文中で混ぜたり、あちこちに数多くの伏線を張り巡らしたり、小説としての工夫はそれなりに凝らしています。物語が大きくうねるまでがやや長く、ともすれば退屈な作品でもありますが、お手すきの時にお読み頂ければ幸いです。何卒、よろしくお願いします。
さて話変わって次回作ですが、いきなりガラッと趣向を変え、難解なテーマのない楽しく読める作品を投稿します。4万文字いかない分量の短い作品なので、1週間の短期集中連載で終わらせる予定です。触りの部分だけ投稿した作品はこちら。
お前はすでに死んでいる。
https://kakuyomu.jp/works/1177354054882119480 タイトル落ち感半端ないですが、別に北斗の拳を題材にした一発ネタというわけではありません。嵐のペンションというクローズドサークルな状況で「誰が死んでいるか」を決めるという、一風変わったミステリー風コメディです。まあ、地盤のしっかりした本格ミステリーではないのですが、読了後にミステリー的な気持ち良さが残る話には仕上げたいと思います。「僕ぼく」と合わせてこちらも、よろしくお願いいたします。