年度も明けて4月ももう半分を越しましたが、皆さまはそろそろ新生活に慣れた頃合いでしょうか? 自分は先月に発売されたばかりのSlay the Spire 2を毎日7時間ぐらいプレイする日々を送っており、人間としてまともに暮らせているのかいよいよ怪しくなってきました。学生時代にこんな中毒性が高いゲームがなくて本当に良かった……。
そんな個人的なゲーム廃人の話は置いといて、新年度ということでフレッシュな気持ちでお送りする今月の「金のたまご」特集。
ナルシストな青年が世界を救うためにスパダリになろうとするループもの、2008年というちょっぴり昔のギャルゲー世界で起こる殺人事件を描いたミステリー、夜な夜な怪奇現象を起こす品々を回収するホラー、数字を使った経済的な形で復讐を遂げようとするファンタジーなど、いずれも個性的な作品が揃っております!
百点満点の高校生活を送っていた神央累は、高校3年のクリスマスに突然世界の滅びを目の当たりにする。そして気が付けば真っ白な謎の空間でテレビ型の謎の存在から【お前がスパダリになれなかったせいで世界は滅びました。あーあ】と理不尽な宣告を受け、高校生活をもう一度一からやり直すことに。
スパダリになって世界を破滅から救えというとんでもない無茶ぶりだが、本作のすごいところは、この無茶ぶりに負けないぐらい累の性格が終わっていることだ。
なにせこの男、スパダリになるための努力も生活の改善も一切せず、不毛な3年間のループを10回以上繰り返す。なぜなら彼は自分が努力なんかしなくても、すでに完全無欠の人間だと思い込んでいるから! その上、3年間を繰り返すことをまったく苦にしない強い精神力の持ち主でもある。わかりやすく言うならば異常者である。
しかし、このままだと永遠にループが終わらないので、さすがの累も多少は折れてスパダリになるための努力をしながら、世界が破滅に至った原因を調べることに。その過程でも異常な自信家っぷりを披露して、周囲の人間や救う対象であるはずのヒロインですら平然と見下していくなど、要所要所で累のヤバさがきらりと光る。これぐらいの人間じゃなければスパダリにはなれないのかもしれない……。
スパダリにならなきゃ世界が滅ぶという理不尽すぎる設定に、アクの強すぎる主人公を投入することで設定の理不尽さが気にならなくなるという、凄い形でバランスが取れた作品。変人タイプの主人公が好きな人は是非ご一読を。
(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=柿崎憲)
過去へのタイムスリップを扱った作品だと舞台となる時代は、昭和あるいは戦国時代など、現代から遠く離れた時代が選ばれがちですが、本作でタイムスリップするのは2008年。まあ、わりと最近ですね……えっ? 2008年ってもう18年前なの? 今の世の中の高校生の大半が生まれてなかったの? ……そのころってスマホはもうあったかな?
アラサーで独身女性だった「私」は、そんな最近のようでまあまあ昔な2008年の世界――正確にはその年に発売された百合ギャルゲーの世界の主人公の身体に憑依してしまう。そして時代が時代だけあってこの世界のヒロイン一人一人の味付けがやたら濃い! そしてあざとい! これがゼロ年代か……!
最初は戸惑いつつも、徐々にヒロインたちとのギャルゲー生活に順応していく主人公。だが、ある日彼女はこの世界の真の異常性に気づいてしまう! さらにそのショックに畳みかけるように、周囲のヒロインたちが何者かによって殺されていく! いろんな意味で崩れていく現実に彼女はどう向き合っていくのか?
2008年のギャルゲー世界を懐かしいレトロなものとして描くという発想が新鮮で、また物語後半で起こる殺人事件の伏線の張り方やトリックも本作の設定をフルに活かしたものになっている。このトリックは賛否は分かれるかもしれないが非常に挑戦的。当時を懐かしく思う人にも、「まだ生まれてなかったよ」という人にも読んでもらいたい一作だ。
(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=柿崎憲)
中からノックの音がする箱、見るたびに被写体が動く写真、知らないうちに数が増えていく食器……生活の中に突然現れるこのような異様な品々を、深夜限定で回収に向かうのが、本作の主人公・空木六郎だ。
しかし、特殊な仕事に就いてはいるものの、彼には何か特別な能力や知識があるわけではない。ただ、上司に言われるがままマニュアルに従って仕事をしているだけの普通の人間だ。だから彼は、上司からきつく『箱を開くな』『気にするな』と言われているにもかかわらず、怪現象を起こす回収品の正体が気になり、つい惹かれてしまう……。
この奇妙な品々の描き方が実に絶妙で、恐ろしいけれどもっと詳しく知りたいという欲求が、つい読者側にも湧いてくる。回収後に回収品の正体や曰くが詳しく解説されることはないのだが、それがまた独特の余韻を残すのだ。
異変が起きた瞬間にタイミングよく無線で忠告をしてくる上司や、回収した物品をにこやかに受け取り淡々と処理する管理人など、同僚たちもどこか底知れないものがあり、薄気味悪さに拍車をかけている。さらに、様々な物品回収を通して、六郎に欠けているものが徐々に明らかになっていくというストーリーの縦軸があるのもよい。派手さはないものの、その分、真綿で首を絞めるようなじわりとした怖さがある逸品だ。
(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=柿崎憲)
王国の首席計数官だった父が「勇者」と「神殿」の不正を告発しようとするも、逆に濡れ衣を着せられ殺されたのを目の当たりにしたエマ・ルミナス。成長して父の復讐に燃えるエマだが、彼女が復讐に選んだ手段は暴力に頼ったものではなく、隠蔽された数多くの不正を、書類や帳簿に残された数字を使って明らかにする、法と数字に基づいた精算だった!
ファンタジー世界を舞台にしているが、主人公のエマがギルドの査定員であることもあり、扱う事件が横領や保険金詐欺などの経済犯罪なのが大きな特徴。最初は地方の商人や冒険者を相手にしていたのが、話が進むにつれて、不正を暴く対象が銀行や神殿、さらには王国全体へとスケールアップしていくのもよい。
数字に対する直感は優れているが、フィジカルはヨワヨワなエマと、彼女に買い取られた護衛のヴォルフによる丁々発止のやり取りも面白く、バディものとしてもしっかり楽しめる。
物語の設定上、経済用語なども頻繁に飛び交うのだが、各話の終わりにエマによるわかりやすい解説もあるため、経済関係にあまり馴染みがない人でも理解しやすく読むことができる。題材は変わり種だが、幅広い読者に勧めることができる経済ファンタジーだ。
(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=柿崎憲)