特集
お風呂が好きです。熱い湯船に浸かって身体の芯まで温まる感覚が好きです。勢いのあるシャワーで頭や身体を打たれるのが好きです。シャンプーやボディソープで泡まみれになるのも好きです。湯上がりに火照った身体で夜風に当たるのが好きです。以前、病院に入院していた時期はお風呂に入れずに辛かったです。一日経つと髪がベタついてきますし、肌もガサガサして痒くなりました。体臭が気になる世代なので、人前ではできるだけ清潔でいたい。というわけで今回は『やすらぎの湯』特集と題してまして、銭湯や温泉をテーマにした作品を取り上げてみました。お風呂は心身ともに癒される時間です。しかし、昨今では風呂を面倒臭がって入らない「お風呂キャンセル界隈」というのが多いそうですね。ストレスでうつ病になり始める人は、まずお風呂に入れなくなるとも聞きます。もしかしたらメンタルが危険な状態のサインなのかも。新年度を迎え、ストレスをためがちな人が多いかと思いますが、頑張ってお風呂だけは入ってみてください。きっと気分も変わりますから。皆さんの新生活を応援しています。
異世界に転生して、女神から「お風呂を作る力」を与えられた青年・伊勢湯屋。そんな彼が銭湯を開き、疲れた人々を癒していく異世界銭湯ファンタジーです。
湯屋が異世界で出会ったのは、命がけで魔物と戦う冒険者、荒れた土地を耕す村人、スラムで必死に生きる孤児など、過酷な生活に疲れた人々だった。
彼らのため、湯屋は街外れに銭湯を開く。最初は半信半疑の人々も、ひとたび湯に浸かれば、じんわり広がる温かさに肩の力が抜け、こわばっていた表情に笑顔が生まれる。湯気に包まれて身も心もほぐれたあとは、湯上がりの冷たい牛乳が染み渡る。そんな穏やかな光景に心が和みます。
派手なバトルや大事件が起こるわけじゃないけれど、小さな癒やしで人の心は救われる。現実が辛くとも、ほんの少しの安らぎがあれば、人はまた前を向ける。前世では自分自身も銭湯に救われた湯屋だからこそできる、そんな素朴な人助けが胸に響きます。
いつも頑張る人たちに束の間の休憩を。現実の生活に疲れたときにこそ読みたくなる、心までぽかぽかになる作品です。
(「やすらぎの湯」4選/文=愛咲優詩)
伯爵家を追放された令嬢セラフィーナ。彼女に残されたのは、片田舎にある廃旅館「銀泉楼」の権利書だけだった。前世で経営コンサルタントだった彼女は、「自分の手で宿を作る」という夢に向かって旅館の再建へと踏み出す。
かつては湯治で栄えながら、源泉の減少とともに客足が遠のき、寂れてしまった温泉地を舞台に少女の夢が幕を開けます。
技術も資金も人手もない。そんなゼロからのスタートにもめげず、とにかく手足を動かしてデータを集め、地元の人々と交流を重ねる。頼れる仲間たちと出会い、ぶつかり合いながら、それぞれの夢を束ねて「みんなで宿を蘇らせる」という目標を共有していく一体感が心地良くて胸が温かくなります。
そして迎える最初のお客様。万全とは言えないながらも、上質な温泉、美味しい料理、綺麗な客室、そして雄大な景観。できるかぎりの精一杯のおもてなしに思わずじんわり。そうして初めての客からもらう感謝の言葉に打ち震えるセラフィーナの姿に、目頭が熱くなります。
物語が進むごとに新たな壁や課題が現れますが、そのたびに皆で知恵と力を出し合って乗り越えていく展開に引き込まれます。読めばきっと、この旅館の一員になりたくなる。旅館と共に人生も再生していく異世界再建ストーリーです。
(「やすらぎの湯」4選/文=愛咲優詩)
人見知りな女子高生・金澤ゆいは、入学した岩浦高校で、銭湯「きくの湯」の娘・加賀桜と出会う。お風呂好きな桜のひと言から、まさかの部活『湯けむり部』が誕生!? 銭湯や温泉を巡りながら青春を謳歌する、ほんわか癒やし系の青春ストーリーです。
個性豊かな4人の女の子たちが、ただ一緒にお風呂に入る。それだけなのに、この部活の日常がとにかく可愛くて、ゆるくて、心地いいんです。
限られたお小遣いでやりくりしつつ、銭湯でのんびり過ごしたり、日帰り温泉ツアーに出かけたり、ときには銭湯の手伝いまで。ひとりじゃない、友達といることで、いつもの「お風呂」が、ちょっと特別な時間に思えてきます。
部活に入った理由も、お風呂の好みもバラバラだけど、だからこそ一緒にいる時間が楽しい。賑やかで和気あいあいとした空気に、読んでいるこちらまで夢心地。
特別なことは何も起きないけれど、大人になって友達とのこんな時間がかけがえなくて、贅沢だったなぁって思い返すんですよね。こんな青春もあっていい。さあ、あなたも湯けむりの向こう側へ、癒やしの青春に浸かってみませんか?
(「やすらぎの湯」4選/文=愛咲優詩)
旅行歴25年の大ベテラン、珍♨湯太郎さんが日本各地の名湯・秘湯を紹介する、旅情たっぷりな温泉エッセイです。
時間さえあれば旅に出る湯太郎さんが、リピートして絶賛する宿泊施設は、ゲストハウスや民宿といった無名の小さな温泉宿です。
大自然に囲まれた風情ある建物、源泉かけ流しの湯、貸し切り風呂や床暖房のオンドル、地元ブランド食材のごちそう、ときには可愛いペットまでお出迎えしてくれる。小さくても個性豊かでサービス満点! しかも驚くほどリーズナブルで、思わずメモして行きたくなる穴場情報が満載です。
何事も評価というと減点方式になりがちですが、湯太郎さんは違います。建物の古さすら味わいと捉え、セルフサービスも他人に気兼ねなくて良いと、旅の楽しみに変えてしまう、いつもポジティブな情景が綴られています。旅と温泉を愛し、心から人生を楽しむ余裕と優しさ溢れる人柄に惹かれます。
私も仕事を休んで、湯太郎さんのように思うまま日本各地の温泉へ出かけてみたくなりました。
(「やすらぎの湯」4選/文=愛咲優詩)