特集
退職代行という言葉を最近よく聞きます。就職した会社が実はブラックで強引に引き止められるとか、退職手続きで職場の人間とモメたくないなどの理由で利用が増えているとか。いまの世相を反映した新しいサービスだなと思います。結婚式などに呼べる友達代行や家族代行、SNSで自慢したいときの恋人代行、夏休みの宿題をやってくれる宿題代行、なにもしないで立っているだけのおじさんを派遣できるサービスなどもあるとか。イラスト作成や音楽編集など、自分のスキルを売り買いできるスキルマッチングサイトも盛況ですね。世の中には代行サービスがあふれていると思います。というわけで今回の特集は『代行サービス』をテーマに取り上げてみました。ある人にとっては無理難題でも、ある人にとっては得意分野かも知れない。完璧な人間はいない、だからこそ助け合う。代行サービスって、人間社会の相互扶助の象徴だと思うのです。そういえば作家やライターという職業も出版社が求める文章を代筆する代行サービスといえなくもない。皆さんは、どんなことを代行してほしいですか?
さまざまな異種族と人間が共存する街、淡海県河都市。『どんなことでも応相談』をモットーにする便利屋シバモトの社長の柴本光義は、柴犬の獣人で元陸上防衛隊の退役軍人。同じく訳ありの従業員たちと、日々さまざまな頼みごとや困りごとを引き受けている。そんな彼らのもとへ、今日もまたひと味違った依頼が舞い込んでくる――。
獣人や幻獣が実在する現代社会を舞台に、日常のトラブルの解決に奔走するストーリーがファンタジックで面白いです。
のんびりとした性格ながらも行動力にあふれた柴本をはじめ、元ヤンキーやハッカーなど、一癖も二癖もある従業員たちが愉快で、地元の人々も人情味が溢れていて微笑ましくなります。
便利屋という看板の通り、柴本たちはどんな依頼も応じる。寂れた商店街のPR活動や、ドラゴン同士の喧嘩の仲裁、農作物を狙う泥棒退治など、ときにはまったく専門外の依頼が飛び込んできますが、毎度ドタバタを繰り広げながら仕事をこなしていく光景が楽しいのですよね。
事件や騒動を通して、キャラクター背景や世界の成り立ちも徐々に明かされて物語の深みを感じさせます。人と人とのつながりが心を温めてくれる、ちょっと変わった"お仕事もの"ファンタジー。
(「代行サービス」4選/文=愛咲優詩)
資産家に生まれた男子高校生・藤垣朋貴は、無自覚に嫌味を言ってしまう癖のせいで、友達がいない。SNSで見栄を張るため、友達代行サービスに依頼した彼の前に現れたのは、クラスメイトの美少女・綾森未希だった。友達がいないという共通点を持つ二人は、友達代行の仕事を通じて、友達の作り方を学んでいくことに……。
自分の気持ちを素直に伝えられず、相手に誤解を招いてしまうことってありますよね。主人公の藤垣くんは、まさにその典型です。周囲と仲良くしたいのに、言葉選びを間違えて、いつも相手を怒らせてしまう。一方、ヒロインの綾森さんは、藤垣くんとはまた違った理由で周囲から一目置かれる存在ながら、実は人見知りで口下手。ふたりとも、実に面倒くさい性格をしているのですが、だからこそ、ごく普通の出来事も新鮮で面白く映るんです。
友達代行のキャストとして、さまざまな現場に派遣され、人間関係に悩み、初めての体験に挑戦していく姿が不器用ながらも、一生懸命で応援したくなります。「友達って、なんだろう?」と、あらためて考えさせられる。人との距離感に悩む現代人に贈る、本当の友情を探す成長物語です。
(「代行サービス」4選/文=愛咲優詩)
桃原次郎は、大企業『桃原グループ』の創業家に生まれた御曹司。26歳で、いまだ独身。そんな彼のもとに、社長である母親が家事代行兼、花嫁候補として送り込んだ女性は、職場の元後輩・水瀬このみだった。さらに次々と花嫁候補が現れ、次郎の私生活はにわかに色めいていく……。
本作は、御曹司とメイドさんたちによる"逆玉ラブコメ"。優柔不断なお坊ちゃまと、逆玉の輿を狙うヒロインたちの恋愛ドラマがときめくんですよ。
登場するヒロインたちはタイプも性格もバラバラ。一人目の水瀬このみはクールで真面目な元後輩。二人目の青家いのりは、ちょっとエッチな元教え子。そして三人目の黄磊千代は、ツンデレお嬢様で義理の妹! それぞれに次郎との繋がりが深い。そんな女の子たちとの甘くてちょっと刺激的な日常が飽きさせません。
炊事、洗濯、掃除と私生活をサポートしてもらえて、なんとなく仕事の調子も上向き……と思ったのも束の間、母親のさらなる策略で一ヶ月の在宅勤務を命じられる。花嫁候補たちと一日中一緒に過ごすことになった次郎は、ついに彼女たちと真剣に向き合う決意をする――最後に選ばれるのは誰? 賑やかで、ちょっぴり刺激的な新しい婚活ラブコメ。
(「代行サービス」4選/文=愛咲優詩)
読書が趣味の高校二年生・樫井悠羽は、同じクラスの美少女・藤宮空澄から、ある「お願い」をされる。それは自分をヒロインにした恋愛小説を書いてほしい、というものだった。樫井は、ある条件と引き換えにその依頼を引き受けることに……。
ヒロインの藤宮さんは、クールビューティーな女の子です。同年代の女子たちが夢中になっている「恋愛」に密かに憧れてはいるものの、彼女自身は「好き」という感情がよくわからない。そんな彼女に恋愛を理解させるために、どんなプロットで、どんな物語を書けばいいのか、というのが本作のテーマとなっていきます。
藤宮さん本人をヒロインにする以上、まずは樫井くんに藤宮さんについて深く知ってもらう必要がある。そんな理由から、二人は一緒に"デート"をすることになるんですが、クールな藤宮さんだけでなく、樫井くんもかなりのドライな性格で、イマドキの高校生のデートとは思えぬ真面目すぎるやり取りがシュールで笑ってしまうんですよ。
やがて藤宮さんだけでなく樫井にもある秘密が明かされ、代行するはずの小説は思いもよらぬ方向へ。恋心のもどかしさと向き合う青春ラブコメディ。
(「代行サービス」4選/文=愛咲優詩)