お盆休みもいよいよ終わりが近づいてきましたが、皆さまはいかがお過ごしでしょうか? 私は近所の松屋より遠くへ行くことはありませんでした。最近は外出するには外が暑すぎやしませんかね……。
というわけで今回は、外に出る気にはなれないが家では特にやることはないという人にもおすすめしたい新作をご紹介。絶妙に性格が悪い最強主人公ものに、インターネットに潜む奇妙な生命体を描いてちょっと不思議な話、不良少年と魔法使いの弟子を名乗る少女の青春ドラマ、滅亡一歩手前の世界で力強く生きる女子高生の異能アクションと様々なジャンルを取り揃えております。お盆休みの最後にぜひぜひ。
パーティーから追放された主人公が実は凄い力を持っていた……というのは追放もののお約束。本作もその例に漏れず、時間を操るという最強クラスの能力を隠し持っていたトキオが仲間から追放されるところから物語は始まる。
しかしこのトキオ、通常の追放ものの主人公とは少し違う点がある。彼の場合、追放された理由は能力面ではなく性格面。決して悪人というわけではない。ただ自分を追放した元パーティーがピンチになることを期待してこっそりストーキングしたり、最強の能力を持っているものだからついつい他人を見下したりと、なんというか性格の悪さが生々しいのだ……。
友達にはなりたくないけど、持っている力が強大なだけにこれぐらい増長するのも仕方がないと感じてしまうこの絶妙な嫌な奴っぷりが読んでいて楽しい。
トキオも自身の性格を自覚していて、自分を変えるために人助けをしようと頑張るのだが、彼の持つ時間停止能力も絶対無敵というわけではない。自分ひとりが生き残るだけなら何も問題はないけれど、他人を助けるとなると思わぬ苦戦が待ち構えている。
圧倒的に最強なはずなのに、性格の悪さも相まってなかなか上手くいかない新感覚な冒険譚をぜひ味わってほしい。
(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=柿崎憲)
描いたイラストをブログにアップするのが趣味な大学生の主人公。ある日彼のブログに異変が起こる。突如ブラウザ上に出現したウミウシによってブログに上げたイラストが食い荒らされているのだ。これだけでもなかなか不気味なのだが、このウミウシにイラストを食べられると、元データにまでその変化が反映されるというありえない現象が起こり始め……。
というあらすじだけ見るとなかなか不気味な話に思われるのだが、それに反して本作にはどこかのほほんとした雰囲気が漂っている。その秘密は主人公の鷹揚さ。突然現れた未知の存在をキモ可愛いとあっさり受け入れて、自身のブログで飼うため自作のイラストで餌付けを行っていく。ある意味大物かもしれない。
ウミウシに対してだけでなく、少し尖った性格の後輩やちょっと変な趣味の義理の妹、定期的にブログを荒らす『クレイジーピエロ(37歳)』と、癖の強い周りの人物に対しても一貫しておおらかな態度を見せることで、主人公の性格に説得力が生まれているのがお見事。書き方によってはホラーになりそうな設定を、この主人公の存在によって、ほのぼのしていながらちょっぴりしんみりする内容に落とし込むあたりに非凡なセンスが感じられる。
(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=柿崎憲)
高校で不良として腫物扱いをされている荒井淳太。ある日授業をサボった彼が屋上で出会ったのは、魔法を練習中の一つ上の先輩――清川素子だった。『魔法使いの弟子』を名乗る彼女は、初対面にもかかわらず淳太を弟子にしようとスカウトしてくるが当然淳太は断る。しかし、彼女はその後何度も淳太の前に現れ、彼も徐々に心を開いていき……。
先輩は実際には魔法らしいことを何もできず、逆に淳太は他人の嘘を見抜くというそれこそ魔法のような力を持っている。そのため先輩後輩の関係とは裏腹に、年上らしい大人っぽい態度を取ろうとする先輩と、それをあっさりあしらう淳太というすぐに力関係が逆転する二人のやりとりがとても楽しい。
一見正反対な二人だが、淳太が不良になったのも先輩が魔法使いを目指しているのにもそれぞれ事情があって、互いの過去を知っていくことで絆が深まっていく過程がとても良い。でも、ある一点で二人の考えは大きくすれ違っていて……。
それぞれ孤独を抱えた二人が出会いを通して成長していく姿が眩しく、そこにちょっぴり魔法のスパイスをまぶした魅力的な青春劇だ。
(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=柿崎憲)
地球に衝突間近の小惑星が発見され、人類に遺された時間は残り一か月。しかし、この隕石がもたらしたのは絶望だけではなかった。この小惑星は接近するにつれて『魔素』と呼ばれる微粒子を地球上にまき散らし、これによって人類はそれぞれが特別なスキルに目覚めていったのだ。
そんな中女子高生の二華が手にしたスキルは「食べた相手のスキルを自分のものにするスキル」……うーん、確かに最強になれるポテンシャルを秘めた能力ではあるんだけど、うーん……。
滅亡を目前に迎え治安が崩壊した世界で、親友と一緒に女子高生がサバイブしようとする姿が大変魅力的。当然状況が状況なだけに結構簡単に人は死ぬし、殺伐とした要素も強いのだけど、二華の語り口や親友の珠々との会話は終始明るく、決してネガティブな空気にはならないのが大きな特徴だ。
少々粗削りな部分もあるが、この設定で物語をしっかり最後まで描き切っている点も見事で、一度読み始めたら一気に最後まで読み切ってしまえる内容になっている。
(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=柿崎憲)