ウィルスじゃないよ、ウミウシだよ。

 描いたイラストをブログにアップするのが趣味な大学生の主人公。ある日彼のブログに異変が起こる。突如ブラウザ上に出現したウミウシによってブログに上げたイラストが食い荒らされているのだ。これだけでもなかなか不気味なのだが、このウミウシにイラストを食べられると、元データにまでその変化が反映されるというありえない現象が起こり始め……。

 というあらすじだけ見るとなかなか不気味な話に思われるのだが、それに反して本作にはどこかのほほんとした雰囲気が漂っている。その秘密は主人公の鷹揚さ。突然現れた未知の存在をキモ可愛いとあっさり受け入れて、自身のブログで飼うため自作のイラストで餌付けを行っていく。ある意味大物かもしれない。

 ウミウシに対してだけでなく、少し尖った性格の後輩やちょっと変な趣味の義理の妹、定期的にブログを荒らす『クレイジーピエロ(37歳)』と、癖の強い周りの人物に対しても一貫しておおらかな態度を見せることで、主人公の性格に説得力が生まれているのがお見事。書き方によってはホラーになりそうな設定を、この主人公の存在によって、ほのぼのしていながらちょっぴりしんみりする内容に落とし込むあたりに非凡なセンスが感じられる。


(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=柿崎憲)