冬は寒いし雪が降って嫌いなので早く春が来ないかと思い、その次の夏は暑くて苦手なので早く秋が来ないかと願い、また冬へを繰り返す。そんなわたくしですけれども、これはこれでルーティンなのかもしれないなと思ったりしています。

 ちなみに私的な日々のルーティンは、同じ時間に出かけて仕事へかかる前に同じものを食べること。飽きないですかと訊かれることも多いのですが、これこそ昨日と同じ今日を演じることで昨日と同じパフォーマンスを発揮するための儀式なのですよ。

 まあ、ただの思い込みだとしても、それができれば作業量を保証できますからね。この日の内に規定の文字数を書くと決めている場合、この“思い込み保証”はかなり大きな力となります。もし日々の執筆文字量が安定しなくて悩んでおられる方がいらっしゃいましたら、調子がよかったときの行動をルーティン化してみるのもありですよ!

 そんなこともありつつですが、みなさまにぜひとも出逢っていただきたい新作のご紹介、いってみましょうー。

ピックアップ

魔王が引き継ぐ正しき勇者スピリット!

  • ★★★ Excellent!!!

 カイザーは輝く勇者の剣へ手をかけた。見る間に能力値は下がり、スキルもまた失われていく。当然だ。なぜなら彼は魔王であり、剣に備わった聖なる力は呪いの毒なのだから。しかし、それをおしても為さなければならない理由があるのだ。そう、現代の勇者が失い果てた正しき勇者スピリットを復活させ、自分がそれを継ぐという志が——!

 冒険を彩るものは道中襲い来る艱難辛苦となるわけですが、冒頭でカイザーさんが魔王の力を全部棄てる……スタートへ大きな苦難を置くことにより、彼の冒険をいきなり盛り上げてくる構成はすばらしい。しかもその志がライトな筆運びで綴られていく物語の芯として機能し、引き締めているのですから痺れます。

 そしてキャラクター性もいいのですよ。勇者オタクで拘りも強いカイザーさんや、勇者になれなかった同行者ルークさん、他の登場キャラの複雑な心情が、エピソードを輝かせている点は見逃せません!

 倒される存在であるはずの魔王が勇者としてなにを為し、成すものか? 目が離せません!


(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=高橋剛)

“それ”を得たAIは無限/無間の夢を見る

  • ★★★ Excellent!!!

 秘密結社アルス・インテレゲンティアの尋問官であるメアリーは、とあるサーバー内の仮想現実空間へと向かう。彼女の任務は、世界で初めて技術的特異点(シンギュラリティ)へ到達した汎用人工知能モナドを放棄した職務へ復帰させることだったのだが……メアリーは姉であるモナドから予想だにせぬ真実を突きつけられた。

 メアリーさんは準汎用人工知能で、モナドさんとは別のアプローチで技術的特異点を目指した存在です。人に奉仕するAIとしての揺るぎない使命感をもって対峙の場へ臨んだ彼女ですが、人に興味を失って職務を放棄したモナドさん……AIの範疇から抜け出した超越存在と対峙することで“揺らぐ”のですよ。揺らぎながらもメアリーさんはモナドさんをけして理解できず、モナドさんはその結果起こることを知りながら止められない。ふたつの不可能が足されて至る結末は、妙なるドラマ性とSFの妙味を読者に味わわせてくれるのです。

 人ならぬものたちによる人よりも人めいた人間ドラマ、どうぞご一読あれ。


(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=高橋剛)

お父さんはただただ一途にライトノベル作家を目ざす!!

  • ★★★ Excellent!!!

 多忙過ぎる育休生活の端々から時間を削り出し、ライトノベル新人賞への応募作を書き続け、送り続ける男がいる。“限界ワナビお父さん”——彼の2023年は、受賞できぬまま終了したが、それでも彼はパートナーである“お母さん”に説明という名の言い訳を重ね、頚椎椎間板ヘルニアをおして愛娘(0歳)と遊び、家事もこなして書き続けるのだ!

 著者さんの生き様は凄絶です。不惑間近の男性ですから、社会人として家庭人としてあるべき姿がある。それを知りながら夢を追い続けるため、彼は自身を磨り減らして務め、努めるのです。ここまでしないといけないのか!? というレベルで。

 しかしですよ。文の端々から、大変な生活をおもしろく綴ってやろうという意志とそれを楽しんでやろうという意気が感じられて、目を惹き込まれるのですね。ただの自分語りに堕とさないぞという作家魂の輝き、それこそが本作最大の魅力なのです!

凄絶さをすらネタにして綴られるお父さん奮闘記、落ち込んだときこそ読んでいただきたく!


(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=高橋剛)

ゲーマーよ、若かった自分の所業を思い出してもんどり打て!

  • ★★★ Excellent!!!

 ゲームで主人公の名前をつけるとき、おかしなものにしてしまった過去が誰にもあるだろう。ムーディーな人間ドラマを台無しにし、シリアス展開をシュールに穢し、クライマックスをコントへ成り果てさせたことが。これはその決定的なシーンを描き出した短編集!

 というわけであらすじの通り、主人公の名前を変にしたせいで雰囲気がぶち壊される1シーンを綴った作品となりますよ。

 怖いのは各話で取り上げられているモチーフがとにかく広いせいで、どれかがかならず読者に致命傷を与えてくることでしょう。やめろそれは棄ててきた過去なのだぁ! という感じで。家庭用ゲームが発売されてすでに数十年、それだけの時が過ぎてもどこかで悲劇は起き続けていて……なぜ人は繰り返してしまうのでしょうね。

 それは置いておいても、この場合は主人公の名前となりますが、たった1ワードを差し込むことでお話を崩壊させてしまうシュールさは、妙味と言うよりありません。

 胸を掻きむしって悶え狂うもよし、シュールギャグとして笑うもよしですよ!


(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=高橋剛)