“それ”を得たAIは無限/無間の夢を見る

 秘密結社アルス・インテレゲンティアの尋問官であるメアリーは、とあるサーバー内の仮想現実空間へと向かう。彼女の任務は、世界で初めて技術的特異点(シンギュラリティ)へ到達した汎用人工知能モナドを放棄した職務へ復帰させることだったのだが……メアリーは姉であるモナドから予想だにせぬ真実を突きつけられた。

 メアリーさんは準汎用人工知能で、モナドさんとは別のアプローチで技術的特異点を目指した存在です。人に奉仕するAIとしての揺るぎない使命感をもって対峙の場へ臨んだ彼女ですが、人に興味を失って職務を放棄したモナドさん……AIの範疇から抜け出した超越存在と対峙することで“揺らぐ”のですよ。揺らぎながらもメアリーさんはモナドさんをけして理解できず、モナドさんはその結果起こることを知りながら止められない。ふたつの不可能が足されて至る結末は、妙なるドラマ性とSFの妙味を読者に味わわせてくれるのです。

 人ならぬものたちによる人よりも人めいた人間ドラマ、どうぞご一読あれ。


(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=高橋剛)