秋の夜長は長編小説を読むのに向いている……なんてことはよく言われるし、自分も秋ごろの特集ではつい言ってしまうのだが、しかし、それは裏を返せば他の季節は長編を読むのには向いていないことになるんじゃないだろうか。特に夜が短く、昼間は平気で真夏日を超える近年の夏は落ち着いて長編なんて読めないのでは?
というわけで、今回は暑さでなかなか長編を読むテンションになれない人にオススメしたい「ショート・ショート」特集。さらに夏ということでホラー多めでお送りします。眠れない熱帯夜などにどうぞ。
本作は超ショート・ショートなホラー集。ショート・ショートといっても並の短さではない。なにせタイトルにあるように一話10文字なのだ。
昨年から連載が始まって今日まで500話以上毎日連載が続いているのも凄いが、それでも総文字数が5000字をちょっと超えるぐらいという短さなのも凄い。
しかし10文字である。漢字が使えるから俳句の十七音よりは長い文章も作れるが、それにしたって短すぎる。当然起伏のあるストーリーや生き生きとした登場人物などを表現できるはずはない。
では、この10文字の中に何があるのか? それは無駄を極限まで削ぎ落すことによって、読み手の想像力を全力で刺激しようとする挑戦だ。読んだ瞬間即座に生理的嫌悪を催す文章もあれば、後からじわじわと怖くなる含みを持たせるような作品もあり、中には怖いというより少しユーモラスな内容のものだってあり、10文字という制限の中で様々な種類の恐怖を表現しようとする試みに溢れている。
人によって何を怖いと感じるかは異なるわけで、中にはあまりピンと来ない怪談もあるだろう。しかし、そういう話を読んでついつい油断していると、突然こちらの心を突き刺す恐ろしい話が姿を見せる。たった10文字と言うこともあって、ついサクサク読んでしまうのだが、だからといって侮ることは決して許されない怪談集だ。
(「サクッと読める! ショートショートの世界!」4選/文=柿崎憲)
ショート・ショートは話の中身が短いことは当然として、それと同時にオチの切れ味も求められる。
そういう意味で本作はタイトルに「ショート・ショート」を冠するだけあって、ラストの一文の切れ味の良さで勝負する純度の高いショート・ショートと言えるだろう。
本作で語られるのはいずれも400字にも満たないホラー短編。一見淡々とした語り口でありながら、最後の一文で一気に読者を恐怖させる落差がすごい。オチを読んだ後に見直すと真意がわかるタイトルのつけ方も素晴らしい。
どの話も粒ぞろいなのだが、個人的にはごく普通の日常の風景を描きながらも最後の二行で一気にアクセルを踏み込んでくる「第5話 私だけ」と、田舎にある祠というネットでは良く擦られる題材を不気味にひねった「第7話 1個と言わずに何個でも」がタイトルの見事さもあって大変印象的だった。
暑さで寝苦しい夜に、ベッドの上でスマホで読んだりすると少しだけ涼しげな気分になれるかもしれない。その後ぐっすり眠れるかは別として……。
(「サクッと読める! ショートショートの世界!」4選/文=柿崎憲)
「森羅万象SF化」とはずいぶん大きく出たタイトルではあるが、本作は決してそのタイトルに名前負けしていない内容となっている。
まず扱っている題材が幅広い。「陰謀論」「超監視社会」といった現代的なものから、「転生」や「VRMMO」といったWEB小説向きの題材、さらには「お料理」や「耳かき」といった生活に根差したものまで、様々な題材をしっかりSFと結び付けており、この手つきが実に巧みなのだ。
「耳を持たないのに突然耳かきをしたくなったサイボーグ」や「読んだものを絶対に惚れさせる究極の恋文」など、どの話もシンプルながら大変興味を引く内容となっている。
そして本作の優れているところとして、どの短編もアイデアが現代的なものとして洗練されているのである。たとえば、「UFOSF」では「突如飛来した空飛ぶ円盤によって、新宿が街ごと宇宙に持ち去られる」という昔のSFにもありそうな出だしなのだが、ラストに待ち受けるオチはまさに現代ならではという感じでつい笑ってしまう。それでいて決してSFとして複雑すぎるということもなく、SFファンにはもちろん、そうでない人にも自信を持って勧められる短編集だ。
順番に一から読んでいくもよし、気になったタイトルの作品から読んでいくのもよし。多彩な作品に読み進める中で、あなたのお気に入りの一作を見つけてほしい。
(「サクッと読める! ショートショートの世界!」4選/文=柿崎憲)
マニュアルというものは便利なものである。仕事におけるノウハウやルールを言語化することで、何も知らない初心者でも一度目を通すだけで、ある程度自分のやるべきことを把握できる。
最近は某「頂き女子」のおかげで、犯罪の世界でもこうしたマニュアルの効果が明らかになったわけだが、本作はその究極版、なんと完全犯罪のやり方を書いたマニュアルである。
科学調査がどんどん発達し、誰もがどこからでも連絡可能な携帯電話を持ち、街中にはごく普通に監視カメラがある。こんな現代社会で本当に完全犯罪を行うことができるのか!?
本作はそのあまりにも困難な問題にマニュアルという形で明確な答えを打ち出した。そしてこの答えの裏に隠されているのはさらなる問いである。完全犯罪とはどこまで徹底すれば完全と言えるのか?
本作にはその答えが紛れもなく描かれている。これを読めばあなたもあっという間に完全犯罪が可能となる。しかし、このマニュアルに従った結果、本当に満足ができるかは少し難しいかもしれない……。
(「サクッと読める! ショートショートの世界!」4選/文=柿崎憲)