お姫様というのは男も女も憧れる存在のひとつだ。ライトノベルにおいてもその人気は顕著で、かつてとある年のレーベルの新人賞作品にお姫様ヒロインが一人はいたことで「プリンセスイヤー」なんて界隈で呼ばれたりした。ヒロインが美少女という以外に付加価値をつけるためにこぞってお姫様という属性を加えた結果である。そんな理由で出番を増やされるお姫様も大変であるというのが今回のテーマ。お姫様だって悩んだり苦しんだり楽なもんじゃないんですよ。でも身分が高い人でも身体を張って頑張る姿は応援したくなりますよね。はてさて次はどんなお姫様が大変な目にあうのだろうか。期待したい。
エメロ国の姫だと知らされず、暗殺者集団「竜の巣」で育った少女ヒメ。任務を遂行するために父であるエメロ国王に接近したが、根が素直で優しいヒメは病で弱った王様の願いを断れず、16歳の誕生日まで姫を演じることに。
特殊な環境で育ったヒメには、王国での暮らしは奇妙で面倒事だらけ。お転婆で世間知らずなヒメは行く先々で騒動を巻き起こす。
もちろんヒメは本物の姫なのだが、本人には真実を知らされていない。それもそのはず竜の巣の王は預かった姫君を返す気なんて最初からなかったから。王国の貴族たちも、次期女王であるヒメの夫の座を狙ったり、弟王子を王位につかせようと企んだり、ロクでもない大人たちばかり。
そんな内輪揉めをおさめ、外敵に備えようとする竜の第二王子ガブリエルたち若い世代の奮闘ぶりがいいんですよ。騒動の中で盛り上がるヒメとガブリエルの恋愛も気になるところ。「竜の巣」に戻るのか、それとも王国で暮らすのか、ヒメの決断や如何に!?
(「お姫様も楽じゃない」4選/文=愛咲優詩)
貧乏国であるナンフェア国の王女テトラは、経費削減から王妃の侍女も勤める侍女王女。玉の輿を狙って参加した舞踏会でテトラはギンゴー帝国の第三皇子リナンと出会う。女性嫌いで必要以上に女を侍らせたくない彼から婚約者兼侍女にならないかと提案を持ちかけられたテトラは二つ返事で受けることに……。
テトラに求婚したリナン皇子は金鉱山を所持するスーパー大富豪。毒舌家だが頭脳明晰、眉目秀麗。そんな貴公子の欠点は生活能力が皆無なこと。
婚約者とは名ばかりの侍女として雇われたテトラは、だらしないリナンの身の回りのお世話や、掃除炊事洗濯に大忙し。
侍女として働く姿を貴族の令嬢からバカにされてもなんのその。すべては祖国の国民を救うため、過酷な労働の中でも、やり甲斐や達成感を見つけて楽しく前向きに生きる姿が魅力的です。
不器用だけど婚約者として少しずつ歩み寄ろうとするリナンに、テトラも次第に信頼を寄せていき……。そんな二人の仲を他国の王子が横恋慕して、ナンフェア国に危機が訪れる。二人は故郷を救えるのか。お金目当てから始まり真実の愛を見つけるラブストーリーだ。
(「お姫様も楽じゃない」4選/文=愛咲優詩)
天才魔術師エマは、冒険者パーティの一員としてラストダンジョンの最下層に挑戦し、敗れた。最後の魔力で仲間を脱出させ、息絶えた彼女が目覚めるとゼノビア王国の第七王女として転生していた。第二の人生こそ穏やかに暮らすと誓うが、天才である彼女が目立たないはずがなかった……。
エマが転生したティア本人は、ゆっくり本でも読んで暮らしたいと思っているのに王女としての立場と、魔術師としての才能が厄介事を引き寄せていきます。さらに生来の反骨精神から、名門のエリート学園に入学しても教師や生徒を相手に騒動を巻き起こすトラブルメイカーなキャラが痛快です。
ただティア本人が特別問題児というわけではなく、この登場人物は他国の王女や聖女まで、かなり血の気が多くて決闘好きなのもあるんですよね。
騒がしかった学園生活も一段落したかに思えば、隣国でクーデター事件が起こる。その首謀者は前世の仲間テオドールだった。真相を探るためにティアは戦争の渦中に飛び込んでいく……。幼くても天才で勝ち気なヒロインのパワフルさに圧倒される一作です。
(「お姫様も楽じゃない」4選/文=愛咲優詩)
ルドレンオブ国の第三王女レイナックは、城で働く侍女と王の間に産まれた不義の姫だった。そんなレイナック姫に惚れ、勝手に自分の剣を捧げるお調子者の見習い兵士タロウの正体は、人類を脅かす魔王だった。
王女でありながら中庭の小屋で寝起きし、肉親からも虐げられた環境で育ったレイナック姫ですが、性格は優しく純朴な美少女。そんな彼女の笑顔が見たいタロウは、強面の上司にイタズラを仕掛けては姫を笑わせることを習慣にしていた。
誰からも大切にされないレイナック姫は盗賊に襲われかけたり、性悪な男の元へ嫁がされそうになったり、たびたび危機が迫る。そのたびに陰でタロウが暗躍し魔王の魔力と権力を使って阻止するのです。
魔王の力でレイナック姫を自分のものにすることは容易い。しかしそれで彼女が笑顔になれるとは限らない。タロウはただ好きな女の子を笑顔にしたいだけなんですよね。男としてもなかなかできることじゃありません。
痛々しい背景を抱えながらも朗らかな日常を過ごす二人の姿が愛おしいプラトニックな恋愛ファンタジーです。
(「お姫様も楽じゃない」4選/文=愛咲優詩)