先日2023年の流行語大賞の候補作が発表されました。創作者には気になる『チャットGPT』や『生成AI』。エンタメ系ではヒットした『推しの子』、『VIVANT』。スポーツ業界では『ペッパーミルパフォーマンス』や『憧れるのをやめましょう』といった名言。そして将棋を盛り上げた『藤井八冠』や『観る将』などがノミネートされていて、新しい言葉や常識、価値観が生まれているのがわかります。あと2ヶ月弱残っていて、まだちょっと早いかもしれませんが、皆さんの今年の流行語はなんでしたか?
今回は新作特集です。私が気になったワードから作品を取り上げてみました。現実で話題になったワードを取り入れて作品の時代性、新規性、個性を押し出すのもひとつの手です。皆さんも気になったワードから作品を作ってみてはいかがでしょうか?
チャンネル登録者一万人超えの大人気Vtuber「ほむるちゃん」は、視聴者の集合知を使って依頼を解決するバーチャル美少女探偵だ。主人公の湖傘啓は、幼馴染の森戸ひかりに頼まれて、ほむるちゃんが出題する謎掛けに挑むことに。
いま流行りのメタバース空間やネット配信者の間で巻き起こるミステリーです。
ほむるちゃんが出題する依頼に視聴者たちがそれぞれに回答を投稿していく。他のミステリーと違うのは、ただ頭でっかちな推理をすればいいのではなく、ほむるちゃんと依頼者が最も気に入った回答を正解とするところ。
ある意味とんち勝負といっていい謎掛けに対して、主人公の啓くんは依頼に隠された意図を読み解いて、毎回そうくるかと唸らせる意外性ある答えを出してくるから面白いのです。
初めは視聴者たちのお遊び半分だった推理合戦が、やがて大手Vtuber事務所のスキャンダルを暴くことに……。
メタバース空間やVtuber、eスポーツ、ディープラーニングなど、いま注目の集まる新技術を取り上げた新感覚のミステリーです。
(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=愛咲優詩)
自給自足の生活に憧れ、長野の山奥で暮らし始めた青年・今福健一郎のスローライフはじめて物語です。
仕事の人間関係に疲れた主人公の健一郎は、衝動的にキャンプ道具一式を抱えて山奥に引きこもってしまいます。
行き当たりばったりで川で魚を釣ったり、小屋を作ったり、酪農にも挑戦してみたりと、無計画だけれど、とにかく思いつくままやってみようという健一郎の行動力が楽観的でいいんですよね。キャンプ生活やひみつ基地を作り上げていくようなストーリーに男心がくすぐられます。
それでも現金収入は必要です。そこで周囲の森や川、野鳥や動物、大自然の暮らしを動画で配信して広告料で稼ぐという発想が、現実でもありえそうで興味深いんですよ。
健一郎の挑戦を面白がって協力する地元のおじさんたちや、職場の後輩も健一郎を追いかけて移住してきて、どんどんスローライフの交流の輪が広がっていくのが微笑ましい。
明日は何をやってみようか。スケジュールのない悠々自適な田舎暮らし、あなたも体験してみませんか。
(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=愛咲優詩)
他者の潜在能力を見抜く超人的な眼を持ち、業界で伝説のMr.スカウトマンと呼ばれる男・交合渉が、その眼で埋もれた才能を発掘して弱小サッカーチームをリーグ昇格へと導く成り上がりストーリーです。
主人公の渉が全国各地を回り、ときには海外まで出張してスカウトした選手たちは、いずれもトップレベルの才能を秘めた選手たち。
しかし実力重視で選んだ彼らは、性格に難があったり、トラウマを抱えていたり、複雑な境遇に陥っていたりと一癖も二癖もある選手ばかり。そして潜在能力はあくまで潜在能力、その能力を発揮できるかは選手次第。活躍できなければ即リストラの厳しい条件を渉は言い渡す。
個性も目的もバラバラでよせ集めな彼らですが、渉に与えられたチャンスを掴むため、プロとしての将来を切り開くため、サッカーへの夢や情熱を抱いてそれぞれ欠点を克服していくドラマが熱いんですよ。
そして迎えた公式戦。問題児の選手たちは果たして勝利を掴めるのか!? 決して甘くないプロの世界のスポ根群像劇です。
(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=愛咲優詩)
子供の頃は、苦いコーヒーを大人の飲み物と思っていた。しかし大人でもコーヒーを熟知している人は少ないのではないだろうか。こちらのエッセイは、そんなコーヒーについての基礎知識を教えてくれる。
曰く、コーヒーが難しく感じる理由のひとつには、コーヒー豆には国際規格がないからだとか。
グレードもバラバラで、麻袋のサイズもバラバラ。業者だって不便なのに統一できないのは、コーヒーベルトと呼ばれる熱帯の産地は自由な国々が多くてまとまらないから。
でもだからこそ個性的なコーヒ-豆が生まれ、世界中の愛好家たちを魅了する。
味のバランスがいいアラビカ種、希少なピーベリーや最高級のコピ・ルアクばかりでなく、安物扱いされるロブスタ種だって、持ち前の苦味がアイスコーヒーには欠かせない。ひとつひとつの豆が主張し合い、補い合い、焙煎やブレンド次第で香りや味わいを変える。コーヒーの奥深さに思いを馳せながら、コーヒーを飲みたくなります。
作る人、運ぶ人、煎る人、淹れる人、飲む人、歴史と文化が織りなすコーヒーの物語をどうぞ召し上がれ。
(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=愛咲優詩)