4月は新生活のシーズンですが、皆様いかがお過ごしでしょうか? 慣れない部分も色々あって戸惑うこともあるかもしれませんが、そうした部分も楽しんでいきましょう。そして、やがていつの日か気付くんです。結局人生に待ち受けているのは代わり映えしない日々の繰り返しだけだということに……。そんな生活の中では刺激は無理やり外部から取り入れるしかないんだ……。というわけで新生活が始まりフレッシュなあなたにも、特に大した変化のないあなたにもお薦めしたい新作特集です。小学生が主人公のホラーから、身につまされるウェブ小説家の話、学園ミステリーに時代小説まで多彩な作品を取り揃えましたよ!

ピックアップ

夏休みの小学生をバリエーション豊かな怪奇現象が襲う!

  • ★★★ Excellent!!!

小学生のタケルは夏休みの自由研究で町の地図を作ることに。ただの地図ではない、町の中で不思議な場所を見つけたら『怪』の文字を書き入れる特別な地図だ。しかし、最初は軽い気持ちで始めたのに異常なことが出て来るわ出て来るわ……。

ホラーと子供の相性はすこぶる良い。子供というのは物理的にも社会的にも弱いものだ。だからこそ脅威に出会ったダメージは大人以上に強烈だし、見た物をそのまま語る子供視点のホラーには何とも言えない淡々とした怖さがある。

そんな小学生が主人公の本作では、タケルが出会う怪奇現象のバリエーションがとにかく豊富!地面を金づちで叩き続ける不気味な老人の話から、友人が見た奇妙な夢の話に、危ない大人に襲われそうになる話など、毎回タイプの違う恐怖でこっちを追いこんでくる。読み終わってもやもやする話から、オチに捻りが効いている話、ちょっとほっこりする話など、読後感も多彩なのが素晴らしい。

タケルの地図はまだ完成されておらず、次の話で完結とのことだが、この物語はどのような結末を迎えるのか……器用な作者だけになかなかオチの予想がつかず、是非最後まで見守っていきたい。


(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=柿崎 憲)

次にこの地獄に落ちるのはあなたかもしれない……!

  • ★★★ Excellent!!!

有名出版社KADOYAMAに勤める真木が新しく担当することになったのは、10本もの連載作品を抱える人気ウェブ小説家六地蔵リクオ。しかしこの男、言動の端々に怪しい部分が見られ、彼の口から語られる創作論もどこか空々しい……果たしてこの男の正体は?

ウェブ小説にはウェブ小説ならではの良さがある。作品を書いている途中でも不特定多数の読者に読んでもらったり、さらにリアルタイムで感想がもらえたりするなんて、昔のアマチュア作家には考えられなかっただろう。そう考えると大変良い時代である。しかし、良いこともあれば、その反面悪いことも当然あるわけで……。

そして本作ではそのウェブ小説の悪い側面がグッと凝縮されているのである。ネタバレになるので詳しくは読んでもらいたいのだが、本作で描かれるのは夢のあるサクセスストーリーなどではなく、一人の作家がウェブ小説の地獄に転がり落ちていく過程! そしてここで書かれていることはけっして特別なことではない。承認欲求を持つ誰もが、一つ間違えればリクオのような沼にはまりかねないのだ……!

ただのエンタメ小説として読んでも面白いが、色々と教訓を得られる秀逸で残酷な一作だ。


(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=柿崎 憲)

平和が似合わない男の殺伐とした生き様

  • ★★★ Excellent!!!

江戸時代に処刑の首斬り役を務めた山田浅右衛門。幕府から直々に仕事を与えられるも、その身分はあくまで浪人。そして太平の世でありながら、日常的に人を斬って暮らしていた。この山田浅右衛門をどう調理するかは書く人によって様々だが、本作の山田浅右衛門は平和な世に似つかわしくない異質な人物として描かれる。

人並み外れた剣の腕を持ちながらも、やっていることは無抵抗な罪人の処刑。当然鬱屈は溜まるばかり。目上の役人のから注意を平然と跳ね除け、遊郭の座敷では何の前触れもなしに突然刀を抜くという、とにかく危険な男だ。だがこの触れれば切れるような危なっかしい態度が、他にはない凄みのある魅力を生むのだ。

そしてこの危険人物に与えられたのが、暗殺の密命。それもターゲットは徳川家にとっての超重要人物! 一介の浪人には重すぎる密命、しかも浅右衛門はこうした謀略には向いていないように見える……だが、彼はあまりに殺伐としたやり方で下準備をクリアする。あとはターゲット――罪人ではなく歴史に名を残す人物――の首を獲るだけ! 時代にそぐわぬこの男の行き着く先やいかに?


(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=柿崎 憲)

先輩は謎解きもするし、魔法も解く。

  • ★★★ Excellent!!!

校内で起きる様々な事件を魔法部に所属する自称魔法使いの空先輩と、キュラ君と呼ばれる主人公が解き明かしていく、学園ミステリー。

殺人や誘拐といった大事件が起きるわけではなく、ジャンルとしては「日常の謎」である。タイトルに魔法とあるが、不思議な力が事件に絡むわけではなく、問題編と解答編をしっかり切り分け、読者にしっかり推理の材料を与える正統派だ。別に主人公も先輩も「魔法部」に所属しているが、魔法と聞いて想像されるような超常現象の存在を信じているわけではない。事件の謎を取り扱う手つきはきわめて現実的だ。

しかし、それでも「魔法」は存在するのである。この魔法が何を意味しているのかは実際に作品を読んでもらうとして、事件の謎だけではなく、事件が起きる原因となった「魔法」を解くのが空先輩の役目である。

誰よりも魔法を信じていながら、探偵役として自らの手でその魔法を解体していく空先輩、そしてそれを支える助手のキュラくん。この二人の関係がめっちゃエモい。ミステリー作品としてももちろんオススメだが、青春小説が好きな人にも是非オススメしたい一作である。


(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=柿崎 憲)