居住区の桜が咲き始めました。
 とはいってもまだ蕾から花弁の先が顔を出し始めて、茶一色だった景色に薄紅が散り始めた程度なのですけれども。満開とはまた違った風情を感じてしまうのは、そう。と・し・な・み♪
 ああ、そういえばですね。わたくし3ヶ月の通勤定期生活を先日終え、自転車おじさんへ戻って喫茶店へ通っておりますよー。歩くのと自転車漕ぐのでは使う筋肉がまるで違いますね。自転車生活を再開して2、3日は腿の前側がブルブルしていました。ちなみに電車+徒歩を始めた当初は腿の下側がブルブルでしたね。どちらがいい運動になるのかはわからないのですが、とにかく冬まで漕ぎ続け、仕事をしていこうと思います。
 そして今月は新作レビューですよ。いろいろなことが始まる4月に向けて——などとは一切考えることなく、みなさまに出逢っていただきたい素敵な作品をただただ全力で選ばせていただきました。ですのでどうぞ、ただただお楽しみください!

ピックアップ

自分の好きを絶対に裏切らない! 一途な少女の恋愛奮闘記!

  • ★★★ Excellent!!!

 中学3年生のとき出逢った喫茶店のマスター、隼人に一目惚れした安藤楓は高校3年生になった今も変わらず彼へ恋している。が、隼人は彼女の猛攻に対してクールなままで。……もちろん楓も、この恋が実るものだとは思っていない。遠くない未来に来るだろう失恋を受け入れる覚悟は決めていた。でも、彼への恋心は遊びじゃないから、彼女は今日も全力で好きだと伝え続ける!

 歳の差恋愛は甘々が基本ですけれども、本作の魅力はそれが真逆なところ——主人公である楓さんご本人からしてそうなれると思っていないことなのです。

 彼女は来るべき失恋の時をきちんと見据えていて、滅茶苦茶に葛藤するわけです。この心情劇の切ないリアルさ、惹き込まれずにはいられません。そして、その深みがあればこそ! 隼人さんへまっすぐ突きつけ続ける熱くて厚い「大好き!」が燦々と輝くのです。

 覚悟があるから決意して、それをした自分へ嘘をつかずに高く掲げる楓さん。彼女の力強い美しさをぜひともあなたの目で感じていただきたく!



(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=高橋 剛)

声を売った声優の話——今、声を出せているのはいったいなぜ?

  • ★★★ Excellent!!!

「その日、僕は、声を売った」。インタビュアーに対して人気声優、椿山侘助は語り出す。クリスマスイブの夜、声のセールスマンを名乗る豊年万作に声をかけられた彼。当時はまだ無名で、彼女へのプレゼントを買う金にも困っていた彼は提示された大金と引き換えに自分の声を売ることとしたのだが。そんな不可思議過ぎる話を語り終えた彼は、インタビュアーへ言うのだ。声を失ったはずの自分が今もこうして声を出せている理由を。

 声を売った話……ただ語られるだけなら与太話で終わるところを、そうと断じず最後まで語らせる聞き手がいればこそ成立する物語構造、魅力的ですよねぇ。言ってみれば読者の視点を預かる主人公=インタビュアーになるのですが、彼もまた物語を読者に読ませる舞台装置として機能する構造美! これもたまりません。

 そして1話から密かに含められてきた伏線が一気に稼働し、描き出すクライマックス、まさに極上のひと言なのです!

 ダークな風情とシャープな構成がたまらない一作、ずいとおすすめいたします。


(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=高橋 剛)

今日、私のアイドルが死んだ。

  • ★★★ Excellent!!!

 国民的アイドルグループのセンターを務めていた白石由紀が自殺した。そのニュースを見た黒川まゆは、中学時代の同級生であり、友達であり、アイドル的存在であった由紀のことを思い起こす。ずっと大好きで、同じ進路に進むことのできなかった彼女。それでも探し続けて、本当のアイドルになった姿を見つけて、そしてずっと見つめてきたのに。その死を突きつけられたまゆへもたらされる感情とは——?

 本作で注目していただきたいのは“グラデーション”。主人公のまゆさんが由紀さんの死に抱いた感情が、過去から現在へ至るまでの回想の中で徐々に形を定かにしていく過程です。

 人はひとつのものや事柄にさまざまな感情を持つものですが、その自然な心持ちは、ともすれば散らばってしまいがちです。が、それをさせずに余計なものや事柄を削り落としていく著者さんの筆はすばらしく、だからこそ最後に残った真実は恐ろしい。

 好きという感情はこんなにも恐い。読後に心へ突き立てられるこの感想を、ぜひ私と共有していただけましたら……。


(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=高橋 剛)