今日、私のアイドルが死んだ。

 国民的アイドルグループのセンターを務めていた白石由紀が自殺した。そのニュースを見た黒川まゆは、中学時代の同級生であり、友達であり、アイドル的存在であった由紀のことを思い起こす。ずっと大好きで、同じ進路に進むことのできなかった彼女。それでも探し続けて、本当のアイドルになった姿を見つけて、そしてずっと見つめてきたのに。その死を突きつけられたまゆへもたらされる感情とは——?

 本作で注目していただきたいのは“グラデーション”。主人公のまゆさんが由紀さんの死に抱いた感情が、過去から現在へ至るまでの回想の中で徐々に形を定かにしていく過程です。

 人はひとつのものや事柄にさまざまな感情を持つものですが、その自然な心持ちは、ともすれば散らばってしまいがちです。が、それをさせずに余計なものや事柄を削り落としていく著者さんの筆はすばらしく、だからこそ最後に残った真実は恐ろしい。

 好きという感情はこんなにも恐い。読後に心へ突き立てられるこの感想を、ぜひ私と共有していただけましたら……。


(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=高橋 剛)