暑い! とにかく暑い! そんなわけで今回の新作特集ではこんな季節にピッタリなホラー長編を2本、紹介します。一つはデスゲームもので、もう一つは人の無人の町に現れる怪物といういかにもホラーの定番っぽい作品ですが、どちらの作品も独自の要素もしっかり加えることで、非常にユニークな作品となっています。それと一緒にサラサラと読める愉快なゲームブックに、相撲を通じて疑似生命体が成長していくという少しシュールなSF短編もご紹介。体調に合わせてお好みの作品をご覧ください。

ピックアップ

僕と広井さんと、ときどき殺人ピエロ

  • ★★★ Excellent!!!

作中の人物の行動を読者が選択することで、枝分かれするいくつもの物語を楽しむことができる……それがゲームブックだ。

しかし、指定されたページに進むためにいちいち本をパラパラめくるのが面倒だったり、ページをめくっている途中で他の選択肢の内容が目に入ったりするということも。だが、ゲームブックの欠点を解決することができる、そうカクヨムならね。

というわけでゲームブックの形式をカクヨム上に再現したこの作品。クリック一つでスムーズに次の選択肢に進めるし、間違ったページを開いてネタバレを踏むということもない、そして何より内容が面白い!

高校入学からスタートし、勉強に勤しむのか、それとも部活で汗を流すのかと様々な選択肢が読者を待っているのだが、待ち受ける運命はわりとストレートに青春っぽいものから、物凄い雑にデッドエンドを迎えてしまうものまで多種多彩。

これは即死亡間違いないだろという選択肢が思ったよりも良い話になったり、無難な選択肢を選んだはずなのに突然謎の宣伝が始まったりと予想外の展開も多く、読者を最後まで飽きさせない。そして何より重要な点だが、どのルートに進んでも同級生の広井さんがとても可愛い!

一つ一つの話は短いので軽い気持ちで読み進められるのだが、一度読んだら最後、全選択肢をコンプリートしたくなること必至な一作だ。


(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=柿崎 憲)

デスゲームの参加者は全員嘘吐き! 真実はどこにあるのか?

  • ★★★ Excellent!!!

何者かによって集められた参加者たちが、強制的に殺し合わせられるデスゲームもの。本作も6人の男女が怪しげな部屋に集められ、部屋の外には既に殺された女の死体が……。

この中の誰が殺したのか疑心暗鬼になりつつも、状況を整理するために彼らは互いにデスゲームに巻き込まれた経緯を語るのだが、実はこの連中は全員皆大嘘吐きだった!

ただの下っ端だったくせにヤクザの組長を名乗る老人や、チンピラまがいの商売をしていながら優秀な弁護士を名乗る男など、どいつも平気で身分や経歴を偽る曲者揃い。そんな彼らの語る身の上話は、カエルのおもちゃを武器にして過去にデスゲームを生き残った話や、VRゲームの世界に取り込まれ殺されそうになった話など、大変バラエティに富んでいて面白い。

互いを出し抜くための騙し合いがどう転ぶのかというミステリー要素も興味深いのだが、それと同時に気になるのが、彼らの話に共通して登場するのが辺見瑠璃という女の名前。
別にそんな嘘をつく必要はないはずなのに、なぜか彼らは作り話をする際に決まって、この女の名前を出してしまう。これはただの偶然なのかそれとも……。

詐欺師たちが織りなすコンゲーム要素とオカルト要素をデスゲームものに組み込んだ異色の一作。果たして最後まで生き残るのは誰なのか!?


(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=柿崎 憲)

霧に包まれた街で少女は殺され続ける……。

  • ★★★ Excellent!!!

学年主任が旅費を使い込んだせいで、修学旅行の行き先が端境町という寂れた街となった廻学園の生徒たち。だが、その街は不気味な霧に包まれた人の姿は一切見当たらない。そして生徒の一人、遥香織枝はホテルの外に出ようとしたところを初日の夜に何者かに殺されてしまう!

……のだが、殺されたはずの遥香は気が付けばその日の夕方、街に着く直前のバスの中に戻っていた。そして先ほど訪れた死を回避しようとするもやはり殺されてしまい、そして再び意識はバスの中に戻ってしまう……。そう、本作は何度も死に戻りをさせられるループものなのだ。

生き残るために倉庫に隠れたり、民家に逃げ込んだり、街から逃げようとしたりするもその度に毎回違うやり方で殺されていく。何をやっても延々と殺されていくのも恐ろしいのだが、それと同時に、殺され続けてどんどん遥香の精神が荒廃していく様子が同じくらい恐ろしい。最初は自分だけではなく友達も助けようとした遥香が平気で友人を見捨てるようになり、さらには自分が生き残るために……。

幾たびの死を超えて人の変わりゆく姿を是非リアルタイムで見守ってほしい。


(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=柿崎 憲)

はぐれサーヴァント、相撲と出会う。

  • ★★★ Excellent!!!

ゴミの山の中から生まれた一つの疑似生命体のチャガマ。全身鎧に包まれた巨大な体を持つ彼は、名前も目的も持たず、考えることはただ一つ「ただただ遊び回りたい」。しかし、人類よりも遥かに強大な力を持つ彼の遊び相手などなかなか見つかるはずもなく、行く先々でトラブルを引き起こす。そんな最中彼はついに、自分の全力をぶつけられる存在と出会う。パワーノート、――すなわち力士と。

魔術などが存在するファンタジーな世界観で、魔術師に作られた疑似生命体が相撲を学ぶというあらすじだけ聞くとトンチキな話だが、これがなかなか面白いのである。

生まれたばかりで性格が純粋なために失礼なこともヌケヌケと言ってしまうチャガマと、そんな彼の失言を受け流しながら面倒を見るカメサワのやりとりが実にいい味を出しているし、パワーノートの強さを見せるために、弟子の身体に平気でライフルを撃ちこむという親方もかなりキている。

その一方で自分の存在意義がわからなかったチャガマが、相撲を通じて自分のやるべきことを見つけ出すまでがしっかり書かれていて、一人の少年(?)の成長物語としてしっかり完結しているのも良い。


(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=柿崎 憲)