深夜に近所を散歩するのが最近の趣味です。仕事や遊びを終えた深夜の２、３時に、さらに夜ふかしをして真っ暗な人気のない街へあてもなく繰り出すのです。とはいっても、２４時間営業のコンビニやドラッグストアなどは深夜でも煌々と明かりがついていますし、大型犬と散歩をする人、ジョギングをする人、夜間工事の作業員など、意外と真夜中でも活動している人は多いものです。公園のベンチに座って星空を見上げる若いカップルなどは存在自体がロマンチックで、物語がいくらでも生まれそうな予感がしました。散歩の終わりは駅前の牛丼店で朝食を食べるのですが、普段と違う時間帯に食べる牛丼が実に美味しい。そして出勤前のサラリーマンの流れに逆らって自宅へ帰ります。見慣れた近所の風景もちょっと時間を変えてみるとまったく違って見えてワクワクするものです。そういう視点を常に持っていたいですね。
ブレンダーをしていた水谷翔吾の夢は世界最高のウイスキーを造ること。交通事故で死んだ彼だったが、酒への情熱を時空神クロノスに見込まれて異世界へ転生して再挑戦の機会を与えられる。かくして翔吾の異世界酒造生活が始まった。
ウイスキー造りにかける翔吾のこだわりが行き過ぎるところもありますが、妥協を許さぬ職人気質な性格と、酒への知識量には感心してしまいます。争い事には無力な凡人なれど、ヤクザ者とも真正面から立ち向かう男気があり、ヒロインたちが惚れてしまうのもわかりますね。
翔吾が造る蒸留酒ピュアウォッカは、「安くて酔える」と庶民の間で大流行。味の違いがわかる貴族にはウイスキーで心を掴み、周囲から一目置かれる酒造職人へと成り上がっていく展開が盛り上がります。
これまでにない美味い酒を口にした人々の喜びや感動に打ち震える姿に自然と笑顔が浮かんできます。そして翔吾の酒が、やがて国や歴史を変えていく。一杯の酒が世界を変える物語、ぜひご賞味あれ。
（新作紹介 カクヨム金のたまご／文＝愛咲優詩）
銀河連邦に加入した新興国家「地球」。異星人の犯罪を取り締まる防衛警察官に着任した新米巡査・真榊弾太郎のパートナーは、十七歳のうら若き乙女の巨大怪獣だった。怪獣少女と新米巡査の凸凹コンビがおくる宇宙怪獣ＳＦ事件簿です。
遠い異星の出身で見た目は凶悪な巨大怪獣ルキィですが、中身は活発なスポーツ少女そのものといった天真爛漫な女の子で、普段は変身グッズで人間サイズの美少女に擬態して、純心でうぶな弾太郎を無自覚に誘惑したり、戸惑わせたりといったラブコメディが愉快です。
酔っ払った宇宙怪獣が暴れていると通報があれば秘密基地から出撃し、巨大化したルキィが大捕物を繰り広げる。かと思えば異星人の違法業者が繁華街で地球人の誘拐と人身売買を企んでいたりと、まさにウルトラマンの世界観だ。
広大な銀河から見れば未開の惑星である地球には裏社会の犯罪者が次々と流れてくる。果たして二人は地球の平和を守れるのか。特撮好きにオススメしたい怪獣ＳＦだ。
（新作紹介 カクヨム金のたまご／文＝愛咲優詩）
世界有数の財閥の御曹司・貴城院光彦は常に注目を集める容姿と名前に嫌気がさしていた。そんな彼が憧れたのがネット小説の主人公『陰キャ』だった。正体を隠して『陰キャ』として普通の高校に通うことにした光彦だが、彼の周囲では騒動が絶えず巻き起こるのだった。
普段は目立たない陰キャに変装して高校に通いながら、イザというときには貴城院の権力で世の中に蔓延る悪を成敗する勧善懲悪ストーリーに胸がスカッとしました。
華やかなパーティや優雅な遊びよりも、のんびりと盆栽を世話したり、ラノベを集めるのが趣味という、どこか浮世離れしたお坊ちゃんな性格ですが、友情と正義感に厚く、身の回りで起きた犯罪を見逃さず、悪は容赦なく断罪する鬼の一面が背筋を凍らせます。
ひっそりと隠遁生活を楽しむつもりが、貴城院の名前を使った悪党退治が目立って犯罪組織に刺客を送られて、理想の生活からどんどんかけ離れていく姿が可笑しい。陰キャで御曹司なヒーローの世直しが痛快な学園モノです。
（新作紹介 カクヨム金のたまご／文＝愛咲優詩）
