気がつけば桜の青葉が黄に彩づいて参りました。ようやく長袖の服を引っぱり出してきた頃合いなのですが、季節はしっかりと秋なんですねぇ。
そういえば我が家の庭はさまざまな虫の生きる場所となっていまして、今日(この原稿を書きに出た日)は玄関先でカマキリとかち合いました。冬が来る前に、いろいろしておきたかったのかなと思います。季節によっては大型のクモの巣に突っ込むこともあります。カマキリもクモも私の襲来に超怒るのですが、私にも生活というものがありますし、生きることは戦いなので大目に見てほしいものですね!
さて。前述したことはなにひとつ関係ないのですが、今月は地方を舞台にした作品をピックアップさせていただきました。その要素を押し出すにせよ、設定程度に留めるにせよ、物語の端々へ土地勘ならぬ土地感が染み出してくるものです。ぜひ、そうした設定が作品に及ぼす影響についてを意識してお読みいただけましたらー。

ピックアップ

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魅せられたものは、見知った男子の見知らぬ姿だった

  • ★★★ Excellent!!!

冬の山形県酒田市。負けん気が祟って漕艇部の雪かきボランティアへ参加することになってしまった美術部の史乃は、その中で次第に意識するようになる。この苦行へ自分を陥れた原因で、普段は脳天気でありながら真摯に作業へ向かうタカ——高田哲治を。

こんなヤツだと思っていた男子が、それとは違う一面を持っていて。ふとしたきっかけで気づいた史乃さんは彼のギャップに惹かれていくわけですね。このあたりの機微が実に何気なく、それでいて印象的に描かれているのですよ。日本中で演じられているのだろう、でも当人にとっては唯一無二な出逢いの有り様、実にドラマチック!

しかもこの作品、標準語バージョンと庄内弁バージョンのふたつが同時掲載されているのです! 言葉はキャラクターに力を与えるものですが、方言によって醸し出される心情の色濃い鮮やかさ、これはたまりませんね。

なんでもなく、でもかけがえない出逢いの物語、標準語→庄内弁バージョンで読み進めるのがおすすめです。


(「地方発ドラマ!」4選/文=高橋 剛)

もどかしさでゆるやかに加速する彼女と彼女の物語

  • ★★★ Excellent!!!

中四国で活動しているバンド、そのベース担当の高崎初音は、恋人である神瀬多喜と日々を過ごしている。特筆するようなことのない、しかしかけがえのない時間を味わい、噛みしめ、時に噛み殺しながら。

なにより初音さんと多喜さんの距離感に目を惹かれます。同性だからということもあるのですが、彼女たちは互いに対してなんともいえないもどかしさを感じているのですよね。彼氏彼女のような収まりのよさがないから、ふたりは収まりどころを探り合うのです。それを直接的な駆け引きでなく、煙草やひとつのワードを基にしていく。まさに匂わせるのですよ。それによって機微が表され、詰まりきっているはずの距離がさらに詰まって、溶け合う感じ。恋は付き合うまでが華となりがちなのに、ふたりの恋はさらに大きく花弁を拡げて匂い立つのです。これは愛だなと、思わずうなずかされました。

文章の香りをお楽しみいただけるこちらの一作、ずいとおすすめさせていただきます。


(「地方発ドラマ!」4選/文=高橋 剛)