真っ白なディスプレイを前にして「何書こっかなー。何も思いつかねえなー。今日は風呂入って寝よっかなー」などと思っているとき、あるいはカクヨムで好きな作品をチェックしながら「また更新止まってるのかよ、早く更新しろよ……」などと思っているときにはあまり気にしませんが、インターネットの向こう側には当然人がいるわけです。たとえば、今自分が何か書くことでどこかの誰かが楽しんでくれるかもしれない。あるいは今自分が面白く読んでいる作品は、作者の人が忙しい日々の合間を縫って一生懸命書いてくれたものである。そうやって作品だけではなく、その作品の向こう側にいる人を思うことができれば、よりカクヨムを楽しむことができるかもしれません。
というわけで今回はネット越しのコミュニケーションを題材にした作品を選んでみました。まあそのうち半分が他人と言い争っている作品なわけですが……。しょうがないんだ。人と人が繋がるってことは友好的なものばかりになるとは限らないんだ……。人間っていうのはそういう風にできているんだ……。

ピックアップ

格闘技世界最強の少女はネット上でも勝利することができるのか?

  • ★★★ Excellent!!!

炎城寺紅子、資産家の家に生まれ、10代でありながら格闘技の世界王者となり、親譲りの美貌を持つ。富・名声・力、この世のほぼすべてを手に入れていた紅子だが、完璧に見える彼女にも一つだけ足りないものがあった。それは……致命的に頭が悪かったのだ。

そんな彼女がインターネット、そしてSNSの存在に気付いてしまったから、さあ大変。意気揚々とTwitterを始めれば即炎上して即凍結、匿名掲示板に自分のスレッドを見つけてはそこの住人と大喧嘩。現実では最強の紅子だが直接攻撃が通らないインターネットではキャンキャン吠えることしかできない無力な少女にすぎない。果たして彼女はこのネットの荒波を超えることができるのか!?

武力100知力18ぐらいのお嬢様と彼女に仕えるメイドが二人三脚でインターネットに潜む悪意と戦う日々を描く本作品。匿名の人物たちによって紅子は毎回酷い目にあうのだが、紅子は紅子で酷いことばかり言ってるし、紅子にネットバトルのイロハを教えるメイドのイルカもとても性格が悪く、登場人物がほぼ全員悪人なため、誰が痛い目を見ても気にせず笑える愉快な内容になっております。


(「インターネットの向こう側」4選/文=柿崎 憲)

★★★★★ こういう手法があったのか!

  • ★★★ Excellent!!!

ファンタジー風の世界へ商品を配達する通販サイト『Isekai Prime』。そこに書きこまれた商品レビューだけで構成されているという異色の作品がこちら。

異世界に向けた通販サイトだけあって扱われる商品は聖剣、ポーション、魔導書などそれらしいものばかり。なのにレビューの内容は妙に生活染みているものや、商品自体ではなく梱包に文句をいうもの、一見賞賛しているようで★は一つという褒め殺しタイプ……などなど現実世界でも見かけそうなレビューが並んでいるというギャップが楽しい。ギャップといえば、“混沌の渦”“夜を喚ぶ者”“忍び寄る災厄”などなどやたら物々しい二つ名とは裏腹に丁寧な口調でレビューを残す魔王たちが印象的で、通販の商品レビューだけでキャラクターをしっかり表現することに成功している。

また商品レビューの裏側で物語がしっかり進んでいくのも大きな特徴。ひとつひとつのレビューの内容から異世界の住人の日常が間接的に伝わってくると同時に、続けて読んでいくと彼らの世界に異変が起き始めているのがわかる構成が実に見事。そんな世界でもしっかり商品を届けてくれるんだから通販サイト様には頭が上がりませんわ……。


(「インターネットの向こう側」4選/文=柿崎 憲)

言葉の棘は廻りまわって自分を刺す。

  • ★★★ Excellent!!!

会員たちが自作の「詩」を投稿しそれを互いに評価しあう詩の投稿サイト『ポエむら』(どこかで見たような仕組みのサイトだ……)。そのサイトで千鶴は「主が辛口コメント書きます」という企画を始める。「なれ合いのコメントではなく本音の感想が欲しい」。そんな需要に応えるべく始まったこの企画。最初の方は好評で千鶴もノリノリで辛口コメントを書きこんでいたが、ある時千鶴の辛口コメントに対して痛烈な返信が送られてきて……。

ネット上の些細なやりとりをきっかけに日常の歯車が徐々にズレていく……というのが主なストーリーだが、本作はそれよりなにより千鶴と彼女のアンチであるPotter5のやりとりのインパクトが非常に大きい。正論といちゃもんを上手いこと織り交ぜながら、他人を煽っていくPotter5のスタイルは人によっては大いに参考になることだろう。

ちなみに本作で一番印象に残ったフレーズはこちら。「いくら『辛くても』まずいカレーはまずい。売れるには、『辛くてうまい』カレーを作らなくてはならない。言葉も同じですよ。ちゃんと、味のある『辛口』コメントをしましょう。」

煽り野郎の発言だし別に自分が言われているわけではないのに、ついこちらも襟を正しくなってしまうから不思議なものだ。


(「インターネットの向こう側」4選/文=柿崎 憲)

変な名前のネトゲの相棒、その正体は……。

  • ★★★ Excellent!!!

ネットゲームが趣味の高校生の加瀬サトル。同級生の伏見エリナに好意を持つもなかなか話しかけることはできず、ネトゲの相棒である自称おっさんの変態ライダーとダラダラチャットをしながらゲームの攻略に励んでばかり。しかし、ある日変態ライダーのアドバイスを参考にしてエリナに話しかけたところ思わず話が弾んでいって……。

タイトルでわかる通りサトルの相棒である変態ライダーはエリナなわけだが、それを知るのは読者ばかり。互いの正体を知らないサトルとエリナは、相手が意中の子だと知らず恋愛相談をしてしまったり、自分の話だと気づかず妙に的確なアドバイスをしてしまう二人の様子が楽しい。

普段のエリナはクラス内では真面目で大人しい女の子といった感じなのだが、ときどき何ともいえない奇行を見せたりと合間合間で思わぬ一面を見せてくれるのが非常に魅力的。しかしやたら妙なテンションで顔文字も多用し時にはウザったさすら感じる変態ライダーの発言の一つ一つが、おっさんではなくて女子高生の発言だと思って読むとどれも非常に可愛らしく思えて来るから不思議なものだ。


(「インターネットの向こう側」4選/文=柿崎 憲)