新型コロナウイルスによって不要不急の外出がしづらくなったり、突然仕事や学校を休まなければならなくなったりといろいろ不便な今日この頃、皆様はいかがお過ごしでしょうか?
私のほうは人生そのものが不要不急であるため、お家で本を読んだりゲームをしたりと全くいつもと変わらない日常を過ごしております。
確かにいろいろと不自由で大変な時期ですがこうやって気軽にお外に出られないからこそ、積んでいる本を崩したり小説の執筆に専念したりといろいろできることがあるはずです。
それでもやることがなくて困ってるという人はぜひ今回紹介する新作を! 長編から短編まで揃っていて突然現れたスキマ時間を充実させてくれるでしょう!

ピックアップ

愛想のいい農家の異世界経営スローライフ

  • ★★★ Excellent!!!

ある日発生した大地震によって、そこで暮らす一家丸ごと含めて異世界に転移してしまった観光農場『たなか農場』。

信じられない大事態のはずなのだが、もともと山奥でひっそりと経営したこともあってか、家族のみんなは妙にのんきである。お爺ちゃんはドラゴンをでかい熊みたいなのものだと言って撃ち落そうとするし、お母さんは朝ドラが見れなくなったことを嘆くし、お父さんはとりあえず牛乳を売る算段をつけるし、びっくりするぐらい全員マイペースなのだ。

そんなたなか農場の人々の生活感あふれる日常が本作の読みどころ。朝から鶏の声で起こされたり、牛の出産で慌てふためいたりと農家ならではの日常は異世界とは違った意味で新鮮な感じがする。

そうやってあくまでこれまでどおりの日常を続けようとする姿、現代知識を使って安易に無双したり大金持ちになろうとするのではなく、あくまで観光農場にお客さんを集めるために頑張る姿が実にいい。

もちろん商売を続ける上で様々な問題や困難が発生したりもするのだけど(何せこの世界では農業とは囚人の刑罰なのだ!)、それでも異世界で知恵を絞ってたくましく暮らしていく一家の姿は読んでいて元気が出て来ること請け合いだ!

(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=柿崎 憲)

ボンクラ奴隷と最強コミュ障魔女による異世界冒険譚!

  • ★★★ Excellent!!!

怪しげな黒服サングラスに異世界に行けばチートな力を与えてくれると言われて、異世界へと転生したシノノメ・タケル。

しかしそんな上手い話があるはずもなく、実際は異世界に来た直後に奴隷にされて市場で売られてしまい、さらに売れ残りになってしまう始末。チート能力も当然なし!
そんな彼を手違いで買うことになったのが見かけはちんまい子供な魔女のルルイェだった。かくしてタケルはルルイェと奴隷契約を結び彼女の下で奇妙な共同生活を送ることになるのだが、このルルイェが実に残念なのである。

生活能力もコミュニケーション能力もゼロで、普段の食事は魔法で出したまずいおかゆと、近所の農家から盗んだ野菜ばかりというルルイェ。世間からは沈黙の魔女と呼ばれ恐れられているのに、当の本人はコミュ障が行き過ぎてロクに買い物もできないという残念っぷり。そんな彼女と、力はないけれど厚かましさだけはあるタケルの凸凹コンビっぷりが実に楽しいのだ。

普段はひきこもりな魔女がタケルに連れられて表に出たことで、トラブルを次々と引き寄せるし、その勢いで国や世界の運命は大きく動く。それでもシリアスになりすぎずに軽快に展開するストーリーは読者の読む手を止まらせず物語世界へグイグイと引き込んでいく。

(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=柿崎 憲)

失われた記憶の中に隠された秘密とは……

  • ★★★ Excellent!!!

ある日病院で目を覚ました柏木勉。彼は自分の身体や感覚、声などに違和感を覚える。その違和感の正体は、自身の身体が人間型のロボット――ヒューマロイドに置き換わっていたからだった。

医者と両親によれば、事故から意識を回復しなかった勉はその記憶をAIに移し替え、ヒューマノイドとして第二の生を与えられたという。

慣れない身体ながらも自分が一度死んだという現実を受け止め、学校にも再び通うようになった勉。しかし、ある時彼の記憶と現実で一つの齟齬が発生する。果たして自分の記憶には何か問題があるのではないだろうか……。

一度亡くなった少年が新たにヒューマノイドとして生きることを描いたSF作品。記憶の謎を探り真相にたどり着くことで、自分が自分であるために必要な物は何か、人間としてどう生きるかという物語のテーマに繋がってくる構成がお見事です。

またこの題材だったらシニカルな結末にもなりそうですが、安易にそうした方向に舵を切らないあたりに作者の人間性が伝わってきます。

(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=柿崎 憲)

その土地では正月に「鬼」が描かれた凧が上がる

  • ★★★ Excellent!!!

告朔の餼羊(こくさくのきよう)。
意味を失ったからといって古くからの風習を廃止してはいけないという意味の言葉ですが、本作はそんないつ廃止されてもおかしくない田舎に伝わる風習にまつわるお話。

まず特筆すべきは雰囲気作りの上手さ。

小学生である蒼介の視点から描かれるお正月の田舎の風景は淡々としつつもどこか不穏な物を感じさせ読者を妙に惹きつける怖さがあり、その不穏さは話が進むにつれ具体的な現象へと形を変えていき、やがて夜中に聞こえ始めるどこかからの呼び声……。

論語に記された故事、意味がよくわからないまま田舎で行われる風習、そして蒼太が生まれたときから意識を失ったままの母親という三つの要素を組み合わせて、一つの作品としてまとめている手腕も鮮やかで、読んでいる途中の怖さと・不気味さとは裏腹に、全ての要素がまとめつつ思わぬ形で物語の幕が閉じる構成は非常に巧みです。

短編なのですぐに読めますし、ただ怖いだけの話ではないので、ホラー系が苦手と言う人にもオススメできる一作です。

(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=柿崎 憲)