暖冬はあれこれ不安もありますが、心理的な問題から家で書き物仕事することができない私にとって、雪に降られる心配がないのはありがたくありますが、さておきまして。
今月のおすすめ4選、みなさまにぜひとも出逢っていただきたい、オープニングからフルスイング――思いきりよくネタを展開してくださっている作品をご紹介させていただきます。やはり出だしは作品の顔にあたる部分ですから、ここで一発かませている作品は魅力高いですね。
というわけで、書き手の方も読み手の方も、その点ご注目いただけましたらー。

ピックアップ

悪に生きて悪に散る! それが悪役令嬢の心意気!

  • ★★★ Excellent!!!

暴走トラックと運命的な出遭いを果たした“私”は、自分が更新の止まったどマイナーネット小説、その悪役令嬢オクタヴィア(7歳)に転生したことを知る。ナチュラルボーンな悪役令嬢好きな彼女は、悪のボスである父や婚約者を巻き込み、この世界で立派な悪役を演じ抜くため立ち上がる!

うん、生き残るとか巻き返すとかじゃなく、惨たらしく散らされることが定められた悪の道を全力疾走してやるっていう生き様、まさにフルスイングですね。ざくざくとした語り口の妙味もありますが、主人公のオクタヴィアさんっていうキャラクターがとにかく強いんですよ。物語のど真ん中をまっすぐ駆け抜けていく様、まさに痛快のひと言です。舞台設定のリアルさがちょっと涙をそそったりもしますけどね。

そして、確定しているはずのルートがちょっとずつずれていくことでもたらされる期待感、目が離せません!

悲壮感一切なしなオクタヴィアさんの悪役譚、読めばかならず元気になれますよー!

(「幕開けはフルスイング!」4選/文=髙橋 剛)

本格ミステリ×ちょっと不思議! 撫子と魔女のロンドン推理譚!

  • ★★★ Excellent!!!

ロンドンで同棲していた彼氏が浮気! 一方的に別れを告げられたナオ・ニレイはビンタ一発、フラットを飛びだした。しかしなかなか新しい住居を見つけられずにいて……そんな中、ルームシェアの相手を探している女性がいるとの話が舞い込んだ。女性の名はマリア・ガーデンフォール。職業は、魔女。

ロンドンが誇る名探偵ばりの観察眼で真実を見抜いていく魔女さんと、不思議なものが見える目を持つ日本女子なナオさんの出会いはそれだけでドラマチック! かけあいでもそれぞれの個性を十二分に魅せてくれてるんですが――おふたりや他キャラさんが持ち寄る「ちょっと不思議」要素、これがですね、本格ミステリにふんわり感を香りづけてて、いいんですよねぇ。心情の動きや雰囲気が大事な女性向けと、冷たくて動かしようのない死を真ん中に据えた本格ミステリ、両立が難しいジャンルなのですが、それをうまく乳化させてくれてるんです。

ミステリに興味持ちつつ手が出せなかった! という方に超オススメです。

(「幕開けはフルスイング!」4選/文=髙橋 剛)

架空舞台で本当の歴史を! キリスト教、北九州に立つ!

  • ★★★ Excellent!!!

日本史でおなじみのイエズス会宣教師、フランシスコ・ザビエルが戦国時代の北九州に到来した! 架空のNAGASAKIを舞台に、ザビエル始め宗教家たちを商人化、大名を任侠化して綴るトリッキーでわかりやすい日本キリスト教史絵巻!

というわけで、あれこれ大変な戦国時代の長崎inイエズス会のお話をドラマ化したのがこちらの作品です。

歴史物に限りませんが、登場人物をどう際立たせるかは書き手の一大テーマですよね。そして著者さんが打ち出したひとつの解が、擬人化ならぬ擬職化なのです。これによって各キャラの立場が整理されてわかりやすくなりますし、デフォルメが効かされることで、彼らが演じる物語が明確に浮き彫られることにもなります。

もちろん、奇策は成功してこそのものなのですが、こちらはまさに成功例です。ひと言で言い切ってしまえば、おもしろい!

島原の乱まで続いていく北九州の宗教事変、その始まりを楽しく学びましょう。

(「幕開けはフルスイング!」4選/文=髙橋 剛)

アキレス腱断裂から始まるその先の物語

  • ★★★ Excellent!!!

アキレス腱を断裂してしまったバドミントン選手が再起へ向かう奮闘記――それ以上の説明は必要ない、著者さんの実体験を綴るエッセイです。

リアルなんですよね。ケガをした瞬間は意外に冷静なんですけど、そこからじわじわ現実や絶望が実感されてきて、体だけじゃなくて心までも蝕まれていく過程が。しかもそうなってなおお仕事やお金にまつわる問題あれこれが押し寄せてきて、呆然ともさせてもらえないわけです。これが語れるのは著者さんがきちんとした社会人だからこそですね。そしてそれを感情に流されることなく客観視して描けてらっしゃるのは、すばらしい書き手魂ですよねぇ。なかなかできることじゃありません。おかげさまで読む側も、身につまされつつ適度な距離感をもって体験を共有(特にギプスつけたことのある方!)できるのです。

突然襲ってきた災いと向き合い、付き合い、踏み越えていこうとする人間ドラマはまちがいなく極上ですよ!

(「幕開けはフルスイング!」4選/文=髙橋 剛)