ボーフラよりも計画性のない生活を送っているので、ひと月の内に150時間ぐらいスプラトゥーンをやっているときもあれば、毎日原稿を書いているはずなのに次々締切が迫ってくるという地獄に叩き込まれることもあります。こういうのは本当によくありません。執筆ペースは無理のない範囲で規則正しく。これが長続きするコツです。というわけで今週も無事更新された特集ページでは新作をご紹介。作品が面白いのはもちろんですが、皆ちゃんと一定の更新ペースを保っていて、本当に凄い……。

ピックアップ

武の領域でもエルフが強いのは当たり前である。

  • ★★★ Excellent!!!

ファンタジーに登場するエルフと聞いて、どのような生物をイメージするだろうか。容姿端麗、不老、耳が長い、魔法が得意……様々なイメージがあるだろうが、本作ではまずそんなエルフの独自の生態や価値観を解説するところからスタートする。

死なないからとにかく増える。一度裏切れば何百年も恨みを買い続けることになるので信義を重んじる。千歳を超えたエルフは若いエルフから命を狙われる。
そして何より、長く生きている分エルフは武芸に長けている。
作品によっては軟弱な種族にも書かれるエルフだが、本作のエルフはそうではない。
これは長く生き続けているエルフが弱いわけがないというシンプルな思想に支えられた、武闘派エルフたちの物語なのだ。

設定も語りもユニークでこれだけでも充分面白いのだが、さらにキャラクターが良い。父殺しを目標とするエルフの美少女クラン(52歳)を始め、生産的なことは何一つしないのにアホみたいに強いエルフの王、決闘中にギャラリーに盛り上げるようアピールする老エルフ、パンケーキを食べて恋バナをするオークと、いずれも異様にキャラが立っている。

まずは物語の冒頭を読んでほしい。この語りにハマった人は一気に全部読み切ってしまうはずだ。

(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=柿崎 憲)

ミステリー小説の登場人物の日常はとてもしんどい……

  • ★★★ Excellent!!!

WEB小説では主流の人気ジャンルの一つ悪役令嬢もの。大抵はゲームやマンガ、あるいは異世界に転生することが多いのだが、本作の転生先はミステリー小説というのが面白い。

従姉が書いているミステリー小説『きらめき三人組』シリーズの悪役令嬢、綾小路吉乃に転生してしまった主人公。この吉乃、よりによってシリーズ最初の事件の最初の被害者になっているのである。

しかし吉乃には生前の知識があるのでそれだけだったら回避可能かもしれない……が、さらに従姉に聞かされた話によれば、彼女の弟と婚約者はサイコパスという伏線が仕組まれてるっぽいのである。その上、ミステリー小説のキャラクターということもあって、頻繁に色んな事件に巻き込まれてしまう。しかもシリーズはまだ未完結ということもあって、物語の結末がどう転ぶかはわからない。ついでに言うなら家族仲もかなり険悪!

そこら中に死亡フラグが立っている状況で、いかにして生き延びるかが本作の読みどころ。難易度高目な悪役令嬢ものが読みたい方にお勧めです!

(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=柿崎 憲)

AIの目を欺いて退屈なループから脱出せよ!

  • ★★★ Excellent!!!

超知性体によってタイムマシンが作られた近未来。人々はタイムマシンで気軽に過去へ行けるようになったが、下手に歴史を動かしてしまうとそのまま別の世界線へと移動してしまい、本来いた時間に戻れなくなってしまう。これではちょっと不便だ。そこで超知性体はあるシステムを作りだした。

それが緊急時間遡行(エマージェンシータイムリープ)。時間遡航者が歴史を大きく変えようとする動きをすると、強制的に30分前の時間に巻き戻されてしまう。これで安心して時間旅行を楽しめるというものだが、そんな決まりきった運命はまっぴらだという者もいる。

本作はそんな二人の高校生を主人公にした短編である。決まった運命から逃れようと自由を求めた結果、延々とループする30分のやり直し。二人はこの状況をどうやって解決するのかというのが読みどころの一つだが、それ以上に注目すべきなのが二人の会話だ。特別なことをしようとしているはずなのに、まるで日常の延長のような二人のやりとりが読んでいて心地よく、それがそのままラストの気持ちよさに繋がっていくのだ。

(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=柿崎 憲)

チートを超えるもの……それは権力と愛

  • ★★★ Excellent!!!

異世界に行けどもチートなし。そんな作品も増えてきた昨今、じゃあ特殊な力なしでどう生き延びるのかが問題になってくるのですが、本作の主人公であるユウヤが選んだ生き方はヒモである。

それもただのヒモではない、その国で崇められる聖女のヒモである。まあ、そんな生き方をしていれば当然一緒に権力もついてくるわけで、ユウヤは宰相になってしまうのだが、周りからは「聖女様を誑かし、宰相の座に就いたのだ」とささやかれる始末。

当然のごとく弾劾されそうになるわ、暗殺者が仕向けられるわとトラブル続きだが、宰相の力を活かした人脈や聖女の後ろ盾を駆使してそれらを乗り越えていく。びっくりするぐらいユウヤを溺愛してする聖女ライラのちょっと行き過ぎた愛情表現とそれらをやんわりとかわそうとしてかわしきれないというユウヤのやりとりも読んでいて楽しい。

キャラクターがコミカルなのもあってそこまでシリアスな展開にはならず、きっちり完結まで書かれており、気軽に楽しめる一作だ。

(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=柿崎 憲)