台風19号が通り過ぎていきましたが、みなさまご無事でしたでしょうか? 私の居住区は風雨がそこそこ酷かったくらいでした。ですのでこうして喫茶店で原稿など書いていられます――と、いうのはともあれ。
 今月は新作のご紹介ということで、いつもと変わりなく、みなさまに出逢っていただきたい作品を悩みに悩み、ネタよしキャラよしドラマよしの「三方よし」な4作を選ばせていただきましたよ! 読書の秋を充実させてくれることまちがいなしの一作ぞろいですので、どうぞ私を信じて出逢ってくださいましー。

ピックアップ

きっかけは突然に! マクガフィンの効いた文具深掘り系小話!

  • ★★★ Excellent!!!

 図書委員会で作業をしていた“私”こと石田は、図書委員長である松井に声をかけられる。曰く、石田が使っている鉛筆は超レアものである……。それをきっかけに石田は文具マニアの松井から文具の奥深さをレクチャーされることとなる。

 マクガフィンといえば登場人物の動機付けや物語の推進剤となるプロット・デバイスというやつなわけですが、それが見事に生かされてるのに目を惹かれました! 主人公の石田さんが偶然持ってただけのレア鉛筆が松井くんとの縁を繋いで、結果、彼女をぐいっとドラマへと引っぱり込んでいく。構成的にも物語的にも完璧です。

 さらにはオチです。内容を言うような野暮はしませんけども、作中に埋め込まれた伏線が最後で「ああ、そういうことか」となるハッピーエンドを見せてくれる様、繰り返しになりますが構成的にも物語的にも完璧です!

 読み手の方はもちろんのこと、書き手の方にもぜひ読んでいただきたい、仕掛けの効いた一作です。

(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=髙橋 剛)

日々更新される嫁が巻き起こすドタバタ悲喜劇!

  • ★★★ Excellent!!!

 アニオタの会社員、伊勢原大悟はアニメイベントの帰り道で事故に遭い、命を落とした。そして神様の手違いをきっかけに、異世界転生ならぬ元世界復活することに。しかも手ぶらではなく、「俺が考えた理想の嫁を創り出す能力」を携えて。

 というわけで嫁が生じるわけなんですが、この湊夏さんの設定、実にすばらしい。アップグレード(?)されるんですよ。大悟さんがアニメとか見ていいなって思ったヒロインの設定に。なので唐突に料理下手になったり命狙われたりなんだりかんだり。

 転生ものはすでに題材としてスタンダードなジャンルとなっていますが、それをぐいぐい捻って最高のオリジナリティを完成させた好例だと思うのです。うん、際だったネタひとつあればキャラは強い輝きを放ち、物語は超加速する、それを再認識させていただきましたねぇ。

 いいネタといいキャラのハーモニーが織り成す大騒ぎな恋愛譚、本当におもしろいです!

(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=髙橋 剛)

松の廊下にいたモブキャラ、実はこんなに奮迅してたんです!

  • ★★★ Excellent!!!

 世に語られる「忠臣蔵」のきっかけ、松の廊下を舞台に浅野内匠頭が吉良上野介へ斬りかかった事件。そのとき、「殿中でござる!」と止めに入ったのが、件のふたりと三ヶ月の間仕事をしてきた下級旗本、梶川与惣兵衛である。その与惣兵衛が見た匠頭、上野介の確執のドラマと、彼の奮闘がここに綴られる。

 与惣兵衛さんって、匠頭さんと上野介さんの板挟みで超苦労した人です。彼はこの事件のこと「梶川日記」にまとめてるんですけど、こういう史実が持つリアルガチさを視点主の情感盛り盛りでドラマ化してるのが本作の見どころです。

 視点主が変われば物語の様子もがらりと変わるものですが、中間管理職的「とほほ」をこれでもかってくらい味わわせてくれる筆者さんの筆力、すばらしいですね。ぜんぜんかっこよくも雄々しくもない、ひとりのおじさんの必死が滋味深いんです。

 みなさんも歴史のリアルをしみじみ味わっていただきたく思いますー。

(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=髙橋 剛)

ここにいる“私”と彼と彼女を描き出す精神科病棟記

  • ★★★ Excellent!!!

 自殺に失敗して精神科病棟へ入院することとなった“じゅり”。彼女はそこでさまざまな入院患者と出会い、そして人間模様を垣間見、自らも演じていく。まとめてみるとそんな感じですが、内容的には大仰なところまったくなし。ライトタッチで「病棟の内の人たち」を語るものとなってます。

 読んでまず思うのは、「混在してるんだなぁ」でした。ひとりの人が“ごく普通”と“超えたおかしさ”を同時に持ち合わせてるってことです。普通の人の当然を大小の差はあれ超えた人たちがいて、でも医療スタッフさんたちも交えながら日々それぞれに生活してる。それがじゅりさんの目を通して軽妙に書き表わされていくんですよ。

 これはまさにレポ小説の醍醐味ですよね。ある意味でこの世界にもっとも近い異世界を楽しませてもらえて、少しだけでもその異世界を理解させてもらえるのは。

 記録としても価値高いですけど、エンタメとしても同じくらい価値高い体験記です。

(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=髙橋 剛)