ここにいる“私”と彼と彼女を描き出す精神科病棟記

 自殺に失敗して精神科病棟へ入院することとなった“じゅり”。彼女はそこでさまざまな入院患者と出会い、そして人間模様を垣間見、自らも演じていく。まとめてみるとそんな感じですが、内容的には大仰なところまったくなし。ライトタッチで「病棟の内の人たち」を語るものとなってます。

 読んでまず思うのは、「混在してるんだなぁ」でした。ひとりの人が“ごく普通”と“超えたおかしさ”を同時に持ち合わせてるってことです。普通の人の当然を大小の差はあれ超えた人たちがいて、でも医療スタッフさんたちも交えながら日々それぞれに生活してる。それがじゅりさんの目を通して軽妙に書き表わされていくんですよ。

 これはまさにレポ小説の醍醐味ですよね。ある意味でこの世界にもっとも近い異世界を楽しませてもらえて、少しだけでもその異世界を理解させてもらえるのは。

 記録としても価値高いですけど、エンタメとしても同じくらい価値高い体験記です。

(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=髙橋 剛)