ちょっとした勘違いで物事はこじれたり、思わぬ方向に転がったりするもの。集合時間ちょうどに到着したと思ったら1時間早かったり、彼氏が浮気をしていると思ったら実は妹だったり、毎日悪さをしていると思っていた狐が実は栗を持ってきてくれてたり……そんな風に勘違いから物語が生まれることも多数あります。というわけで、今回は勘違いをテーマにした物語を4本紹介。微笑ましいカップル同士の勘違いから、登場人物だけではなく読者も勘違いさせる物語まで、どうぞお楽しみください。

ピックアップ

誤解から始まる急転直下の3分間

  • ★★★ Excellent!!!

いきなり銃口を突き付けられているというショッキングな場面から始まる本作品。

事の始まりは3分前。ケーキ店でアルバイトをする少年・烏丸鳩也は暴力団の梟島組に拉致されてしまい、「お前の正体は殺し屋『カッコウ』だろう」と、激しい尋問を受けることになってしまったのだ……。

『カッコウ』の疑いをかけられた鳩也だが、ヤクザたちの言い分はほとんど難癖で、しまいには名前が鳥っぽいから『カッコウ』に違いないと言い出す始末。状況は深刻なはずなのにどこか空気はコミカルでついつい楽しく読み進めてしまうのだが、そうやって油断していると物語は突然思わぬ方向へ急転換する。

作中で経過する時間も3分ですが、実際に読み終わるまでにかかる時間も約3分間。果たして本当に勘違いしていたのは誰だったのか?

時間経過から読者の心理まで、色々な角度から計算された作者の技巧を堪能してください。

(「ああ……勘違い!」4選/文=柿崎 憲)

戦略的で心理戦な惚気たっぷりの恋愛相談ラブコメディ

  • ★★★ Excellent!!!

クラスではあまり目立つ方ではないが、周囲からよく相談をもちかけられる守屋直孝。ある日、彼は学園一の美少女・白石真奈から恋愛相談を受けて、快くアドバイスを返すのだが、なぜか彼女はそのアドバイスを直孝に対して実行してくるのであった……! これはあれか、もしかして真奈の好きな人というのは直孝なのか? どうなんだ!?

……いや、まあ読者からは普通にバレバレなんですが、しかし肝心の直孝本人にはそのことがわからないのである。真奈は直孝のアドバイス通りに行動しているのだから、直孝が自分のことを好きになって、いずれ向こうから告白してくるのは間違いないと確信して、次々に積極的なアピールを仕掛けてくる。kawaii!!

だが、直孝視点からすれば学年一の美少女である真奈が自分に好意を向けているなんて普通に考えたらありえない。下手に真相を聞こうとして、これが自分の勘違いだったら3年間は立ち直れないトラウマになるだろう!

こうして両思いなはずの二人の思いはすれ違いし続けるのだが、二人が織りなすテンポの良い会話も相まって、この絶妙にもどかしい距離感が実に良いのだ!

しかし、そんな二人の前に、直孝の良さを理解するわかりみの深い女子が現れるから、さあ大変。どうする真奈! いつまでも告白待ちをしていたんじゃ直孝を奪われるぞ!

(「ああ……勘違い!」4選/文=柿崎 憲)

ハイテンションな変態は異世界で悪党になる

  • ★★★ Excellent!!!

魂だけの状態で異世界に来てしまった水砂千晶。そのまま死にそうなところを助けてくれたのは、なんと勇者に倒されて死にかけていた、いかにも悪人顔の男ルインフェルトだった。彼は体を渡す代わりに二つの条件を千晶に言い渡す。一つは「悪名をあげること」、そしてもう一つは「悪名をあげきった後に死ぬこと」だった。

あまりに無茶な条件だが、現在進行形で死にかけている千晶はその条件に逆らえず契約。結果、彼は極悪非道の大悪党ルインフェルトとして異世界で第二の生を送ることに……。

本作の特徴は何と言っても、とにかくテンションが高いルインフェルト(千晶)の語りであろう。魂の状態であろうが、大悪党になろうが、食べ物が無くて餓えようが、決してペースを崩さず、下ネタ混じりな痛烈なモノローグを延々語り続ける。さらに周りからは超危険人物と思われているが、中身はただの気さくな変態なので、そこから生じるギャップが非常に楽しい。

だいぶ性格に癖のある主人公なので、人によって好き嫌いは分かれると思うが、とりあえず第1話を読んで、有りだと思ったら是非続きを読んで欲しい。

(「ああ……勘違い!」4選/文=柿崎 憲)

空腹から始まるお嬢様の恋愛物語

  • ★★★ Excellent!!!

地元では知らぬ者などいない有名な名家・西園寺家。そこの一人娘・清華はまさに容姿端麗で美少女と呼ぶにふさわしい令嬢であった。しかし、実は西園寺家の資産はほとんど失われ、常に食べるものに困っているレベルで、庭で野菜を自給自足しなければならない始末。
そんな彼女の秘密を偶然知ってしまったのが、学園の東條渉。渉は彼女に食べ物を与えたことをきっかけに仲良くなるのだが、渉のある発言がきっかけで清華は渉から告白されたものだと思い込んでしまう。そうと知らぬ渉は今までどおりの距離感で接しようとするのだが、どんどん清華の方から距離を近づけてきて……。

男女の機微にうといお嬢様な清華の日常での勘違いっぷりが本作の読みどころ。デートの最中に意味は分からないけどとりあえず目をつぶったり、渉に性的なことに興味があるか堂々と聞いてみたりと、本人が意味を良くわかっていないだけにずんずん踏み込んでくる。

ちょっと食べ物をもらうだけで、その人をいい人だと思い込んだりと、チョロすぎて不安になってしまうところもあるが、そこはご愛嬌。

お互いの認識がズレつつもどんどん親密になっていく、二人の甘々な生活をお楽しみあれ!

(「ああ……勘違い!」4選/文=柿崎 憲)