面白いはひとつじゃない。どの作品にもそれぞれの面白さや魅力があります。作品によって流行や人気の上下はありますが、面白いに正解はありません。ある作品での主張が、別の作品と真逆でも、それらは矛盾しません。ひとつの作品だけでなく、いくつかの作品と読み比べることで見えてくる面白さもあります。今回はテーマや主義主張がそれぞれ異なる作品をピックアップしてみました。違うからこそ面白い、違いを楽しんでみてください。

ピックアップ

この小説の魅力を伝えられたらあいつに告白します

  • ★★★ Excellent!!!

男子高校生・宮藤修也は、異能バトル系や異世界ファンタジーなど、可愛いヒロインがいっぱいでてくるラノベが大好きなラノベオタ。一方、同じ文芸部の二階堂絵理奈はガチガチのミステリーマニア。

当然ながら、二人の好みが一致するわけがなく、文芸部の読書感想会は、いつも口喧嘩になるのだけれど、ラノベ好きな読者には二階堂の正論がグサグサと突き刺さる……。

ラノベ主人公が最初から最強チートだったり、パンツ見られたのに美少女が惚れてきたり、文章が薄っぺらかったり、確かにご意見ごもっともなんだけど、男の子はそういうラノベが大好きなんだよ!!

何故、宮藤がラノベに執着するのか。何故、二階堂がラノベを拒絶するのか。そこには悲しい事情があり、二人の過去にクローズアップしていく展開が切なく、泣けるのだ。

正反対のようでいて、小説への情熱を認め合っている二人の関係が甘酸っぱく。毎回の書評バトルも、いつか自分の本当の気持ちを告白するための真剣勝負だ。

宮藤のラノベ愛と二階堂のミステリー愛、先に相手に伝わるのは、果たしてどちらの愛か。

(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=愛咲優詩)

乗り越えるのは自分の壁。ボルダリングに挑む小学生たちの熱き成長物語

  • ★★★ Excellent!!!

小学六年生の男の子・神戸かなたの幼馴染・生田かなめは、地味で気弱な女の子だけど、テレビに出演するほどのボルダリングの天才少女だった。

男の子らしい意地っ張りから「あのくらい俺でもできる」と友達に見栄を張ってしまったことから、かなたもボルダリングに挑むことに。

デコボコの壁を登るだけの簡単な競技に思えて、サッカーやドッチボールとは使う筋肉も違う、どの順序でホールドを登っていくのか頭も使う、登る人の個性によって攻略法も違う、初心者のかなたを通じてボルダリングの奥深さに気づかされます。

普段は下に見ていた幼馴染が、大人も投げ出すハイレベルな課題をクリアしていく姿に心を打たれ、「あいつはすごい」と素直に認められて、意地っ張りな男の子が少しだけ大人に変わっていく成長ぶりが微笑ましい。

ボルダリングを通じて繰り広げられる少年少女の瑞々しい情熱が伝わってくる。

いままでにあるスポーツものとはまったく違う粘り強さ、躍動感、勇気、そして自分との勝負。ボルダリングの魅力に引き込まれました。

(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=愛咲優詩)

世界の法則を書き換えて崩壊寸前の異世界を救え

  • ★★★ Excellent!!!

謎の人物ソロモンに「異界管理者」として雇われた三十二歳独身男・坂本京太郎が、滅亡寸前に陥った異世界を救う。

新人「異界管理者」の京太郎に与えられたのは、世界の法則を改変するルールブックの力。

世界の法則を自由にできるなら最強じゃん!と思うが、そうは問屋が卸さない。

彼が新しくルールブックに書き加えられるのは『生物』と『技術』、そして『管理者の情報』だけ。

さらに彼に任された異世界は、前任者が好き勝手にルールを作ったせいで世界のバランスが崩壊寸前。

勇者は不死で神も殺せる武器を持っているし、魔族も固有魔法というルールブック以上の力を持っていて、世界の管理者といえども万能で無敵とはいかないのがもどかしい。

しかも異世界に行けるのは就業時間の朝9時から夕方5時まで、完全週休二日制というホワイトな職場だけれど、それが制限時間になってしまう。

いろいろな縛りがある中で、手探りで世界を救う方法を模索していくストーリーが面白いのだ。

もし自分なら世界にどんなルールを創造するか、そんな想像力を掻き立てられる作品だ。

(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=愛咲優詩)

私と契約して、異世界を救っ「断る!」そんな勇者様!

  • ★★★ Excellent!!!

異世界チート否定派の新人ラノベ作家・杉原一馬と、彼を勇者として勧誘するため異世界からやってきた美少女神官ココナのズレた掛け合いが笑いを誘い、昨今のラノベ事情について考えさせられる。

「異世界でチート無双してなにが楽しいのか」と、テンプレ一辺倒な最近のラノベの流行に物申したいラノベ作家は主人公の一馬だけでなく世の中に大勢いるだろう。

担当編集に諭されて売れ筋に作風を改めようとする一馬だが、空気を読まずにどこにでも出現するココナの存在が、逆に彼を意固地にしてスランプに陥らせてしまう光景に胸が痛む。

自分はもっと面白い作品が書けるのに、読者がそれを求めてくれない現実に絶望し、それまで否定していた異世界へと気持ちが揺らぐ一馬の懊悩がやるせない。

ちょっと未熟で繊細な一馬は、現代のラノベ作家の等身大の姿なのかもしれない。

読者が作家を追い詰めることもあるのだ。「アラサーのおっさんがチート能力で異世界を救う」みたいな作品が好きな読者へ向けたアンチテーゼといっていいだろう。

というか、その読者は私だった! 作家のみなさん、本当にごめんなさい!

(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=愛咲優詩)