今回は新作レビューということで、特にテーマは定めず「はた」と目の止まった作品を4本ご紹介いたします。
目が止まる作品にはもれなく“力”があるものです。ネタがいい、キャラがいい、あるいはテーマがいい――いろいろな“力”があるのですけれども、それが感じられる新作と出逢えるのは本当にうれしいものなのです。逆にご紹介しきれなくて悔しかったりもするのですが……ともあれ。
そんな私の楽しみも悔しみも、みなさまがカクヨムという場にご投稿くださればこそ。これからも何卒よろしくお願いいたします!

ピックアップ

ここはすべてが“嘘のくに”

  • ★★★ Excellent!!!

時は天保(1831年~1845年)。飢饉で生活が立ちゆかなくなった農家から吉原へその身を売られた初音は、「あやの」の名を与えられて偽りの色恋を売る“嘘のくに”で生きる――

天保時代を代表する事象と言えば“天保の大飢饉”ですが、この物語はそれをきっかけに苦界へ身を落とした初音さんの生き様を描いたものとなっています。

うん、実にタイトルが生きてますね。嘘のくに――農村の娘たちを集めて江戸の“中心”を築き上げた吉原、その不可思議な土地の有り様を、たったひとつのワードでこの上もなく表わしています。
そしてこのワードが初音さんの描く人間ドラマを下支えし、重みと深みを与えているのもすばらしい! 

主人公にきちんと焦点が合わせられているからこそ、より一層ワードが彩づき、テーマを掘り下げると同時に浮き彫るんです。

また、文章構成も読みやすさを意識したものになっていますので、時代ものがお好きな方だけでなく、これから時代ものに触れていきたい人にもオススメしたいと思いますー。

(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=髙橋 剛)

釣れる日もあり釣れぬ日もあり、釣り人の等身大なお話

  • ★★★ Excellent!!!

釣り好きが贈る釣りの話という、実に潔いエッセイがこちらです。
解説からして専門用語ばりばりなので、シロウト(もちろん私もです)にはちょっと敷居高そうに見えます。でも、ものすごくおもしろいんですよ。
職人さんや好事家の方の日常拝見って感じで、普段触れる機会のない世界だからこその「へえー」がいっぱいなんです。

そしてエッセイだからこそのリアリティがまたたまりません! 
たとえば2話の「釣れませんでした。」で語られるのは、人気の無い釣り場でテンション上げてがんばったけど、結局釣れずなお話。……釣れたお話ももちろん含めてのことなんですけど、ままならない魚との戦いに全力を尽くして一喜一憂する様が、主人公=著者さんのそのときの心情そのままに綴られていて、なんとも感情移入させられちゃうんですよね。

著者さんがありのままのご自分と出来事を語り明かす等身大の釣り話。釣りはよく知らないという方でも絶対楽しめますよ!

(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=髙橋 剛)

「ぽっちゃり」から始まるのはふたりの物語

  • ★★★ Excellent!!!

正社員という地位に魅力を感じないまま29歳になった日下仁葵(小さくてぽっちゃり)は、派遣社員として日々の仕事に励んでいた。が、そんな見た目的に残念な彼女へ近づいてくる、同じ職場の正社員・富塚梧豊。

できる男と評判の彼がなぜ……?

まず「ほほう」と思わせられたのは、仁葵さんの姿が謎かけに使われている構成ですね。
こんな人がどうして? と目を惹かれずにいられません。
さらにはそれがきちんと謎解きされていて、次の展開に繋がっているのも見どころです。
すごく小さなお話を転がして転がして……雪だるま的にひとつのロマンスへ育てていく構成、ほんとに「ほほう」なんですよ。

そして仁葵さん視点で明かされていく梧豊さんの有り様がまたたまりません! 
梧豊さんを語ることで仁葵さんの有り様や心情がしっかり伝わってくるのもいいですね。読んでると自然にふたりが好きになっちゃいます。

ドラマ読みもキャラ読みもできる恋愛劇、たるくない甘さをご賞味くださいませ。

(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=髙橋 剛)

脳内からテキストへ! 全部見せます小説の書きかた!

  • ★★★ Excellent!!!

多くの小説の新人賞で求められる「10万字」の作品、それを書き上げるひとつの練習段階として「5万字」程度の作品を書く。これは著者さんが実践してきたその方法論をまとめたものです。

実際のところ、物語を冗長にせず、しかも偏らせることもなくドラマとして全うさせるのは大変なことですよね。

こちらの論のポイントは、絶対必要なエピソードの作りかたや置きかた、展開方法が、著者さんの実際の作品をテキストに語られているということなんです。
よくある小説の書き方って、論だけが並んでいることも多いんですけど、こちらは同じページ内に参照文献があるのですごくわかりやすい!
 
加えて脳内で考えているネタをアウトプット、文章化していく過程を実際の流れに沿って綴ってくださっているのは、本当にすばらしくてありがたいですね。

つい最近小説を書き始めたという方、そして書いているけれどもなかなかうまく行かない、行き詰まっているという方、ぜひご一読を!

(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=髙橋 剛)