新作を中心に発掘していく、カクヨム金のたまご。特にテーマなどを設けているわけでもなく、新作を手当たり次第に読んで面白かった作品を紹介することになっているのですが、今回は奇しくも「対話」が面白い小説を中心に選ぶことになりました。生き物を殺すことの是非について話し合う高校生の男女、死体を埋めに行く最中なのにやたら明るく話を振ってくる大学の先輩、直接言葉を交わさないけれども、普通の会話よりも遥かに濃厚なコミュニケーションを行うテレパスたち、そして転生した先で処女膜とその持ち主という関係になってしまった魔王と勇者。それぞれ癖のある人物が織りなす魅力的な対話の数々をお楽しみください。

ピックアップ

わたしが【わたし】であるための、冴えたやり方

  • ★★★ Excellent!!!

思念放射という犯罪が頻繁に起きるようになった近未来を舞台に、思念放射犯罪対策官(カウンターテレパス)である主人公の活躍を描くSFミステリー。

薬物中毒者が自分の思考を周囲にまき散らし他者の精神を汚染する、思念放射というアイデアが非常に秀逸。
彼らと思念放射犯罪対策官(カウンターテレパス)の互いに思考を侵食し合う戦いの様子は、小説ならではの表現が存分に盛り込まれていて読んでいて一気に引き込まれる。
また、主人公のエドが好むスムージーの描写などから、この世界の設定をわかりやすく読者に伝えるなど、設定の見せ方も非常に上手い。

秀逸なのは設定や文章力だけではなく、ストーリー自体にもある仕掛けがされており中盤からの展開は読んでいて思わず「あっ」と声を上げてしまった。
思念放射に関わる一連の事件の謎も魅力的だが、主人公のエドが「通常は平均一年で潰れると言われる思念放射犯罪対策官(カウンターテレパス)を、なぜ六年間も続けることができたのか」という謎も実に興味深く、物語を最後まで興味深く読ませてくれる。

(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=柿崎 憲)

命の境界線を学ぶ、放課後の授業

  • ★★★ Excellent!!!

皆さんは猫はお好きでしょうか? ネット上だと猫の画像が貼られた呟きが何千回もRTもされることもあるし、疲れたときに猫の動画を見て癒されるなんて人も多いですよね。

本作の主人公はそんな可愛い猫を殺すのが趣味という男子高校生。
殺すのは一匹や二匹ではありません。それもただ殺すのではなく素手で殺したり、ナイフで殺したりと殺害方法は実にバリエーション豊か。
こうやって、説明するとただの悪趣味な小説に思われるかもしれませんが、本作では彼の猫殺しを通して読者にシンプルで強烈な問いを突き付けます。

「殺して良い生き物と殺してはいけない生き物の境目はどこにあるのか?」
たとえば虫は平気で殺せるのに、猫を殺すという行為には嫌悪感を抱く人も多いでしょう。ならば、その違いはどこにあるのか?

本作はそんなテーマを突き詰めた強烈な一作。
ただ残忍なだけではなく、猫を殺す主人公が、とある理由で猫を殺す少女に出会ったことから始まる青春小説的な側面もあるので、ご安心を。
ただ主人公の行為を断罪するのではなく、しっかりと作者独自の見解で導かれるラストは美しくも壮絶。既存の価値観に反する内容を描きながらも、それがしっかりエンターテインメントとして昇華されていく。
これぞまさにホラージャンルの醍醐味といってもいいでしょう。
猫好きの方以外には文句なしにおススメです!

(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=柿崎 憲)

タイトル詐欺にご用心! ただのコメディかと思いきや……。

  • ★★★ Excellent!!!

この世界の人間がトラックに轢かれて異世界に行く。これはよくある。
異世界の人間がこちらに転生してくる。それもよくある。
しかし、異世界の人間がこちらに転生してきて処女膜になる。これはあまりないシチュエーションだろう。

というわけで本作は異世界で勇者との戦いの果てに、処女膜に転生してしまった魔王が主人公のシュールな物語。とはいっても、処女膜の魔王は自発的な行動は何一つとれないので、もう一人の主人公となるのがその処女膜の持ち主である女子高生の成瀬美海。
彼女も普通の人間ではなく、実は魔王と共に転生してきた元勇者。魔王が美海の日常の生活にダメ出しをしたり、あるいは美海が魔王に制汗スプレーの缶やこけし型のストラップを見せつけて無言の脅迫を行ったりと、一見すると普通のコメディに見えるのだが、本作はそう素直には進まない。

美海が学校では周囲と上手く馴染めず浮いてしまい、クラスの女子からいじめにあうというシリアスな学園パートもあれば、魔王と美海のギャグにしか見えない奇妙な共存関係にとんでもない秘密が隠されていたりと、次々に意外な設定や意外な過去が明かされて、タイトルからは想像もつかない物語が展開されていく。

笑いあり、涙あり、恋愛あり、アクションありと、様々な要素が混然一体となった青春の一ページをご覧あれ。

(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=柿崎 憲)