出征した祖父。待ち続けた祖母。彼女の孫である語り手が祖母の人生を追想する物語。晩年に認知症となった祖母は、孫を夫と思い込み〝総一さん〟と祖父の名で呼んだ。そして末期が近づきいたとき「ごめんね」と詫びた。その言葉の理由となった不思議な逸話は、本作を読むものに様々な感慨を呼び起こす事だろう。戦争で引き裂かれた夫婦の情。人の心の動きの不可思議さ。一言では言い難い種々の思いが去来する場面。このレビューを目にしたのならば、本作を読み、ぜひその情趣を味わって欲しいものである。
あぁ、なんとも素晴らしい作品だったのでしょうか。今はただ、感謝を。
冒頭、主人公が祖母の思い出を振り返る――晩年は認知症を患い、孫である主人公を「戦死した夫」と思い込んでいた祖母。主人公に向かって「総一さん」と呼びかけ、会えば乙女のように笑っていた。彼女が語るのは、亡き夫との瑞々しい暮らしの一コマだ。しかし、百歳で天寿を全うした彼女が最期に遺したのは、意外な「謝罪」の言葉だった。『総一さん、あの時はごめんね……』戦後の荒波を女手一つで生き抜くため、彼女が切り捨て、封印してきた「あの日」の記憶。突き放さねばならなかった母の強さと、女としての悲しみ。セピア色の古い写真を見ているような、美しくも切ない家族の物語でした。
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