概要
おすすめレビュー
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- ★★★ Excellent!!!この上なく濃く細やかな、充実した重みのある短編。
誰一人、どうしていいかわからないまま生きている。時間だけが進む。
歳が離れていて、でもこれほど深く結びついていて、その関係に名前とかそういうものは要らなくて、けれど二人の平行線を結局捻じ曲げることはできない。
偶然そばにいた人と人の心が絡み合った、言葉にならない時間。過酷で仄甘くて、あまりにも苦く。
読後、ただ感情の深い波に静かに揺さぶられる。
人間同士の心の絡み合いを、このように描き出せる作者様の感覚が、素晴らしいです。
ぜひたくさんの人にこの感情の深い揺れを味わってほしい。この上なく濃く細やかな、充実した重みのある短編です。 - ★★★ Excellent!!!生の状態
『幸せとは、欲望を失い、苦痛を感じなくなってしまった、負の停止状態だ』
そのような言葉を、なにかの小説で目にしたことがある。正確な言い回しは、忘れてしまったけれど。
なんとも斜に構えた言葉だが、一点の真理を突いているようにも思える。人は、往々にして幸せを求める。でもそれは、必ず破れる。なぜなら『希望や愛欲を胸に抱き苦痛に塗れても進んでいく、それが生の状態』だからだろう。破れても求め、求め得たら破れる。その繰り返し。
だから、そのときそのときが、重要だ。
その瞬間瞬間を刮目し、その掛け替えのない時を抱き締める。それしかできないし、それでいい。
この小説は、そんなことを僕に囁いてくれたよう…続きを読む - ★★★ Excellent!!!孤独な少女と不器用な男が綴る、心に染み入る物語
全5話の短編です。
多感な小学校五年生の少女・凛と、不器用ながらも優しい男・健のやり取りが心に染み渡ります。
物語は二日後に引っ越しを控えた一日を回想と共に描き出しています。
凛はうらぶれたアパートの一室で母と二人暮らし、いつも独りぼっちでした。
そんな凛にとって、階下に住む健だけが心の拠り所で、実はこの二人、心に大きな傷を負っているのです。
故あって一人暮らしの健は世間では●●と言われています(伏字部分は是非本文で)が、凛はそうでないことを知っています。
本当の健の姿を知っているからこそ、凛は健に、健の優しさに惹かれていったのかもしれません。
第3話で凛が健に告げる言葉があります。…続きを読む - ★★★ Excellent!!!夏の墓
文学少女ときいて、まず想い浮ぶ人、それが葵春香さんだ。
もちろん他の女性陣も膨大な読書量を積み上げていることだろうが、「文学少女」という言葉から想起される、目立たない場所で物静かに本を読んでいて、迂闊に声をかけられない没入の空気をまとった少女のイメージ、あれに最も近い。
まだ幼さの残る年齢の葵さんが小説の世界に踏み込むことになったきっかけは源氏物語。
「久しく逢わぬあいだに、とても大人になられましたね」
同級生の少女たちがアイドルにお熱になっている同じ頃、男君が養育している姫君に久方ぶりに話しかける、こんな古めかしくも雅な世界を、葵さんは几帳をずらすようにして頁の合間に覗き見して…続きを読む