深夜喫茶「灯」

　仙台の裏路地にだけ、そっと明かりを灯す深夜喫茶――「灯（ともしび）」。
　開店は夜十時、閉店は朝五時。
　控えめな照明と静かな音楽が、街の喧騒から切り離された“夜の止まり木”をつくっている。

　店主は、落ち着いた声の青年・篝 灯（かがり あかり／28歳）
　必要以上に踏み込まず、それでいて不思議と居心地のいい距離を保つ男だ。

「相談には乗れない。でも、話なら聞けるよ」

　仕事に疲れた人、ひとりになりたくない人、
　言葉にできない悩みを抱えた人たちが、静かな夜に吸い寄せられるように、ふらりと席に腰を下ろしていく。

　灯が淹れる一杯のコーヒーは、問題を解決しない。
　けれど、心のどこかをそっと緩めてくれる。

　――人は、話すことで少しだけ前に進める。
　そんな、小さな真実を見つけられ…続きを読む