『燃えよ筋肉』
霧原いと
ご参加本当にありがとうございます
※注意
この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません
◇ ◇ ◇
人気web小説サイト「カケヨメ」は、今日も珠玉の作品を投稿していくweb小説家たちであふれかえっている。
そして此処にも、不気味な笑みを浮かべる執筆者が一人――。
「くくくっ、「筋肉自主企画」も随分と仕上がって来たな……」
彼女の名前は、霧原けいと。
お試しの短編予定で投稿した「筋肉小説」が何故か全50話15万字にまで到達し、完全に「筋肉小説の人」という印象が刻み込まれてしまった筋肉モンスターだ――。
「だが、私はただでは倒れん! この「筋肉キャラ」を逆手に取り、「筋肉自主企画」を立ち上げてやったのだ……! ふはは、カケヨメよ、筋肉の暑苦しさに溺れてしまうが良い!」
「いや、誰に言ってるんですか」
隣で少し引き気味に霧原を見つめているのは、コハルという大学生の少女だ。ツッコミ役として連れてこられたらしい。
「良いかい、コハルちゃん! 普段、シリアスしか書かない作者様の綴った筋肉ギャグからしか摂取出来ない栄養がある……!!」
「それは大いに同意しますけど、言い方、言い方!」
「困惑しつつも筋肉作品を書こうと頭を悩ませる作者様を見ていると、申し訳なさと同時に凄く満たされた気持ちがわいてくる……!」
「もうそれ、ただの性格がヤバイ人ですよ! 自重してください、友達いなくなりますよ!?」
こうして高笑いを浮かべていた霧原だったが、唐突に表情を曇らせると大きなため息を吐いた。
「しかし……、我々は今、大きな問題に直面している……」
「いえ、仲間に括って欲しくはないんですが……。問題、ですか?」
息を飲んで問いかけるコハルに、霧原は自主企画の画面が映ったパソコンのディスプレイを見せた。
「見たまえ! 明後日終了する筋肉自主企画、その参加作品数を――!」
「えっ、こ、これは……!」
コハルは衝撃に目を見開きながら、声を弾ませる。
「121!! 凄い数字じゃないですかっ!」
「そう、121!! 凄い数字なのだ。大変ありがたいのだ。だが……、だが、足りぬっ!!」
「ええっ、欲張り過ぎませんか!? 何の問題があるんですか」
困惑するコハルに、霧原は遠い目をした。
「ふっ――、これには深い理由があるのだ」
「深い、理由……!?」
「それは……これだっ!!」
霧原は覚悟を決めたように、握り締めているスマートフォンの画面をコハルへ掲げた。
そこにはトイッターというSNSのポストが表示されている。
日付は2週間ほど前らしい。
『皆さま、「筋肉自主企画」にご参加いただきありがとうございます!
なんとなんと!
ついに参加作品が100を突破しました!
このまま、どーんと1000作品を目指しましょう!
1000作品いかなかった場合、私は「筋肉ムキ子」に改名します!!』
「……な、なんですか、このポストは!?」
「あと、879……!
あと879集まらないと、私、筋肉ムキ子になっちゃう……!!」
「いくらなんでも1000は非現実的すぎるでしょう! 何でこんな発言しちゃったんですか!」
「なんか……、なんかこう、深夜のテンションで、いけるかなって思って……」
「お馬鹿っ!」
「くくくくっ、どうしよう、うううううっ……」
「もう泣いてるじゃないですか!? ああ、ほらほら、涙拭いて!」
「だってこれじゃ、一生筋肉小説しか書けなくなっちゃう!」
「いっそ今後、そういう生命体として生きていったらどうですか?」
「コハルちゃんは筋肉小説のリスクを知らないから、そんなことが言えるんだ!」
「筋肉小説のリスク?」
「家族に予測変換で「バルク3世」「マッスルすみれ」が見られた時の気持ちが分かるかい!?」
「うわぁ……それはお辛い……」
「『あ、これ、アニメについて検索してて!』みたいな言い訳をして、完全に憐みの目を向けられた、私の気持ちが分かるというの!?」
「霧原さん、リアルでも絶望的に嘘が吐けませんもんね」
「今度は予測変換が「筋肉ムキ子」になっちゃう!!」
「どれだけ予測変換にトラウマ抱えているんですか……」
こうして部屋の隅で下腿三頭筋を抱えて項垂れる霧原に、コハルは呼びかけた。
「霧原さん! 諦めるなんて、霧原さんらしくないです!」
「えっ?」
「今まであなたが書いていた、熱い筋肉魂は何処へ行ってしまったんですか!?」
「で、でもっ……」
「良いですか、霧原さん!」
どんっ、とコハルは力強く拳を握り締める。
「心に熱い筋肉を持ってください! 筋肉は全てを解決します!!」
「――!!」
その姿に、霧原は雷で打たれたような衝撃を受けた。
全身の筋繊維が躍動し、解決のために今や今やと飛び出さん勢いだ。
「ありがとう、コハルちゃん! 私、気づいたよ。この窮地を解決する、たった一つの方法に!」
「本当ですか!? 凄いです、それで、その方法とは?」
「書く!!」
「へっ?」
「書きます!」
「え、あ、何をですか?」
「筋肉小説を」
「はい」
「一人で」
「ええ」
「明日までに879書く!!」
それは、あまりに脳筋な手法だった。
呆気にとられるコハルをよそに、早速霧原は執筆に取り掛かった。
「くくくっ、AIで数十の作品を一日に投稿する猛者がいるらしいな! 私は人力でその上をいってやるわ!!」
「やめてください、霧原さん! センシティブな話題に触れないで!!」
「いくら沢山投稿しても、人力ならば構わんのだろう!?」
「いや、多分駄目です、アウトです! サーバーに負荷をかける行為は禁止です!」
「筋肉ミステリー、筋肉モキュメンタリー、筋肉学園もの、全て網羅してくれるわ!」
「だから駄目なんですって、あああっ……!」
――こうして、霧原は執筆に励んだ。
その結果、普通に3作品くらい完成し、他の滑り込み投稿合わせて筋肉自主企画は128作品で終了した。
霧原は筋肉ムキ子になった。
おしまい!
『燃えよ筋肉』 霧原いと @kirihara_ito
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